Fahrenheit -華氏- Ⅲ


♥Ruka♥


久しぶりに啓に抱き締められた。


いえ、抱きしめるとは少し違うけれど。


啓の肩に寄り掛かると啓のFahrenheitとぬくもりをいっぱいに感じた。それは以前と全く変わりなかった。


あたしはこの香りと温度が



好き



啓は黙ってあたしの話を聞いてくれた。時折何かを言いたそうにしていたけれど、それでも変わらずあたしを受け入れようとしてくれる姿勢に変わりはない。そんなとこも



好き



車に待機してもらっていた葵さんには好きな場所のコインパーキングに車を停めるように言っておいた。このまま彼を車中泊させるわけにはいかない。明日あたしがタクシーで取りに行けばいいだけの話。


葵さんは最初いつまでも待つと言ってくれたが、あたしが断った。


二村さんがミミちゃんこと瑞野さんのストーカーをしている啓が宿泊している部屋に警察を送り込んだことだけは喋った。


「空汰のヤツも何考えてるんだよ、あいつは」と流石に葵さんも引いていた様子だ。「ミミちゃんもミミちゃんだよ、こんなあからさまな当てつけ」


「まぁうまく切り抜けましたけどね」


「まぁ瑠華ちゃんなら切り抜けられそうだけど。でもあいつホントに何がしたいんだろ。そこまでするならミミちゃんの傍にいてやればいいのに。そしたらミミちゃんもこんなことしなかっただろうに」


「そんなに簡単な問題じゃないのでしょう。何せ二村さんの今の”本命”は緑川さんですから。ミミちゃんの傍にいたら計画がおじゃんです」


流石にあたしが啓から聞かされ、さらには瑞野さんから盗み出した動画の件は黙っていたけれど。


「で?瑠華ちゃんはミミちゃんとその知り合いと一緒に過ごすの?」葵さんはどこかつまらなさそうに唇を尖らせ


「ミミちゃんの体調がすぐれないので、あたしが様子を見てます。知り合いは役に立たないので」


少し御幣はあるが葵さんは瑞野さんが妊娠していることを知らない。今、知らせることもできない。いや、ここまで来て疑うのもなんだが二村さんともしかしてどこかで繋がっているかもしれない可能性もゼロとは言い切れない。


「瑠華ちゃんが単にその知り合いと一緒に居たいから、とかじゃないの?」と葵さんがちょっと剣を含んだ視線で見てきて


「私はミミちゃんと同じ部屋で休みます。知り合いとはあくまでそれだけの関係。そこになんの感情もありません」


あたしは嘘をついた。