Fahrenheit -華氏- Ⅲ


「水でも飲む?」俺はリビングの方を見やり部屋に備え付けてある冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出した。


「ええ、ありがとうございます」瑠華は素直についてきた。俺がソファに座ると瑠華はさも自然に俺の隣に腰掛けてきた。それだけなのに以前の俺たちの関係に戻ったようで嬉しい。


どこまで踏み込んでいいのか線引きは難しいが俺は「どんな夢を見たの?」と聞いていた。


瑠華は少し悩んだ後「ちょっと……昔の夢を…」と頭痛でも堪えるように額に手を置いた。


昔の夢が何なのか気になったが何故だか聞いちゃいけない気がした。


少しの沈黙が流れ、やがて瑠華が額を押さえたまま


「さっきマックスと会ってました」と大きなため息を吐いた。


うん、知ってる、とは言えなかった。


「あの男、性懲りもなくまたあたしとやり直そうって」


まだそんなこと言ってるのか!あいつぁ!


「散々気持ちがもうないことを伝えた筈なのに堪えないから、とうとうジェシカの名前を出したんです」


「ジェシカ?」誰それ。


「マックスの母親ですよ。姑と言うと聞こえがいいですが、それよりももっと(たち)の悪い魔女みたいな女です。マックスを溺愛していて結婚こそ反対されませんでしたが、あいつの浮気を黙認しろと言ってきたんです。それが嫌なら離婚しろ、と。元々あたしのことヴァレンタイン家の財産狙いだと思っていたみたいで。離婚の際はジェシカとマックスと闘って泥沼でした」


「浮気を黙認しろぉ!?」


どこの昭和時代だよ、タイムスリップもいいとこだ。


てか瑠華の実家だってそこそこ資産家だ。カネ狙いなんかじゃない。当時はそこにちゃんと愛が存在していた。認めたくはないがな。


「そうしたらあの男何て言ったと思います?ジェシカを納得させる案があると言って」


どうしたんだろう、今日の瑠華はやけに素直にあれこれ喋ってくれる。それを嬉しいと取るのか、それとも瑠華の負った傷が誰かに喋ってでもしまわないと癒えないからだろうか。


どちらでもいい、俺は今でも瑠華の全てを受け入れるつもりだ。


「案?」皆目見当もつかない。まさか殺……


あわわわわわ!


俺が口元を手で覆うと





「二人目を作らないかって。今度は男の子がいいって。そしたらジェシカも納得するだろうって」




はぁああああああ!!?