Fahrenheit -華氏- Ⅲ



「部長に……?」瑞野さんが大きな目をしばたたかせて俺を見る。てか事前に何の打ち合わせもしてなかったから俺は何て答えればいいのか分からずあたふた。


「瑞野さんが妊娠していることを知って酷く動揺されていたので。私は今日この日に三人の男性と会いました。今までのクリスマスの中で過去最高です、自分にギネス記録を贈りたいぐらい彼らに振り回されました」


あのぅ…瑠華サン?それはジョークなのですか?いや、半分本気だろうなー…トホホ


「それより体調はどうですか?警察が踏み込んできてさぞびっくりされたようですが」と瑠華が瑞野さんの前まで歩いていき、彼女を覗き込んだ。


顔色は若干青白いものの、さっき俺の前で気持ち悪そうにしていた雰囲気は今はない。


「はい、今はつわりもおさまってます。ちょっとびっくりして思わず隠れちゃいましたが体調は大丈夫です」


「そうですか、良かった」瑠華はちょっと微笑みながら瑞野さんの下腹部に手を当て、「出血などもないですか?」と聞いていた。


さすが経験者。手慣れている。


「あ、はい。大丈夫です」


瑞野さん?俺のときとだいぶ態度が違わないかい??


「それなら大丈夫ですね。今夜はもう遅いのでさっきのベッドに戻ってもうひと眠りしてください。疲れたでしょう」と瑠華が提案するも、瑞野さんはくの字になってるソファと対になってる一人掛けソファに腰掛け膝の上に両手を置くと項垂れた。


「あたしのせいで、ご迷惑をお掛けしてごめんなさい」


この言葉に俺と瑠華は思わず顔を合わせた。


「いえ、瑞野さんが悪いわけではありませんが、思いのほか報復が早かったですね二村さんの」と瑠華が淡々と言い瑞野さんは肩を縮こませた。


「は!そうだ!北品川と言えば緑川のマンションがある。二村は緑川を言いくるめて『ちょっとコンビニに』とか言ったんだろうな。ハッシュタグがついてるからホテルの場所も分かってるし。刑事だったら警察バッジを見せればホテルマンだってすぐに部屋番号言うだろうしな」


「あ、あたしが軽率でした」瑞野さんは演技か、そうじゃないのか瞳を揺るがす。「まさかこんなことまでしてくるなんて」


二村は―――緑川と離婚するまで瑞野さんには好きにしていい、と言ったが言動と行動が伴ってないんだよ。瑞野さんに対する執着は相当なものだ。