Fahrenheit -華氏- Ⅲ


マックスの泊まっていたホテルと同じで、寝室とリビングが別室になっているタイプで啓が歩いて行ったのは寝室だった。


部屋の中央に置かれたクイーンサイズのベッドの真ん中で瑞野さんが心地よさそうに寝息を立てていた。一瞬、ドキリとしたが瑞野さんの着衣に乱れはなく化粧もきっちりされている。


「こっちへ来て」と啓に腕を引かれて今度は何も言わずあたしは彼に従った。


角部屋のくの字に設置されたソファに啓はどさりと身を沈め、その仕草が疲れを滲ませていたように見えた。






「流石に妊婦をこの時間帯に一人で帰すわけにはいかないだろう?」




あたしは目を開いた。


啓は―――気づいたのだ。


テーブルの上に食べかけの料理がいくつか乗っていてワインのボトルも置いてあったが、料理は時間が経ったことを物語っていて表面がパサパサしていた。


「久しぶりに二人きりで飲もう」とワインのボトルを啓は持ち上げた。


「聞きたい事、山ほどあるし」啓は疲れ切った顔を上げて、しかし真剣な目であたしを見てきた。


あたしは啓の提案に従うつもりで啓の隣に腰かけた。


グラスに赤い液体を注ぎながら


「瑞野さんの出向の理由、ついさっき分かった。君は隠したかったんだろう?瑞野さんが妊娠してること。桐島も調べてくれてさ、表参道にある産婦人科を紹介したのも君だろ?」


桐島さん―――?案外あなどれない人ね。


まぁ理由がどうであれ


「ええ」バレた以上今更隠すつもりも嘘をつくこともない。


「何で相談してくれなかった」啓は両手で顔を拭う仕草をした。疲れを見られたくないのだろうか。


「それより瑞野さんのおなかの子の父親が誰だか聞かないんですか」


「二村だろ。さっき瑞野さんから聞いた」


瑞野さん―――そこまで喋ったのね。


まぁ、すぐに誰だか分かることだけど。