Fahrenheit -華氏- Ⅲ


”物分かりの良い”ホテルマンが”ご丁寧”に啓が宿泊してる部屋の号数を教えてくれた。


4706号室。


ふーん……瑞野さん相手に随分張り込んだじゃない。とちょっと面白くないあたしはスマホを閉じて乱暴にバッグに放り入れた。


そんな不機嫌なあたしのご機嫌取りか葵さんが


「今日の瑠華ちゃんさ、めちゃキレイだね」と言ってきた。


は?


シャワーも浴びてすっぴんだし、髪もセットしてない。


「これのどこが?」助手席で思わず葵さんを睨むと


「んー、元が超!いいから化粧なんて必要ないし、着てる服がかっこいいーっての?俺はもっとふわっとした感じのが好きだけどね」


あそ。


でも―――


啓に会う前に少し化粧した方がいいのかも。啓はあたしのスッピン知ってるけど、今更乙女心なんてあたしに残ってたなんて―――


バッグを開くと化粧ポーチの中にはアイブロウとアイライナー、そして濃いめのリップしか入ってなかった。まぁでもこれでもしないよりましか。


葵さんに運転を任せてあたしは乏しい光の中で何とか化粧を始めると


「どんな関係なのか知らないけど、その知り合いの為に化粧をする瑠華ちゃんなんかヤだなー」と葵さんが面白くなさそうに唇を尖らせる。


「葵さん、化粧は女性の戦闘服、武器と同じです」と真剣に葵さんを見ると、葵さんは大きな目をぱちぱち。


「じゃー、瑠華ちゃんはその知り合いと闘うつもりなの?」


葵さんもまだまだ女心を分かってないわね。


闘う相手は啓じゃない。




瑞野さんだ。