Fahrenheit -華氏- Ⅲ



何でそのこと――――


俺は目を開いた。


何か……何か言わなきゃ。と焦りだけが先行して俺は言葉も発せずにいた。


「”優里”さんがフォロー申請してきたときから何となく気づいてましたけどね。どうせ勇くんにでも入れ知恵されたんでしょう。だって勇くんと佐々木さんを共通にフォローしてるなんて柏木補佐ぐらいしか思い当たりませんでしたもの」


「勇くん―――?」


「あれ?知りません?柏木補佐の自称”彼氏”


でも安心してください。





あの二人付き合ってませんよ」


瑞野さんは子供が内緒話をするようにどこか楽しそうに俺に耳打ちしてきた。


「二村くんは半信半疑ってところですけど、勇くん演技うまいから。それに二村くんと勇くんの付き合い長いから勇くんが二村くんのこと知り尽くしてるってとこかな。


ただ、このあたしにも分からないことはあります。勇くんはどうして柏木補佐に協力してるのかって。確かに柏木補佐って勇くんの好みだと思うんですけど、それだけであそこまで協力的になれるのかな。勇くんはどっちかって言うと女の人よりお金が好きな人だから」


瑞野さんは難しい数学の問題を目の前にしているように「うーん」と顎に手をやって唸っている。






カネ――――……?





なるほど!ようやく合点がいった!俺の中で何かが繋がった。


瑠華はあのピンクの髪の男にカネを払って動かせたんだ。


だが瑞野さんはそこんとこに気づいていない。いや、気づかせてはならない。


「まぁ柏木さんは君の言う通り顔”だけ”は可愛いから」と俺は気のないフリ。


「ホントは気にしてるでしょー」と瑞野さんは身を乗り出して楽しそうに言い、俺の鼻の先をちょんと指ではじく。


俺は盛大にため息を吐いた。演技ではなく本気だった。


「気になるが、そいつは二村の味方ではないだろ?それだけ分かったら今はそれでいい。


それよりも”取引”の方が先だ。俺と柏木さんが寄りを戻せたらその男とも縁が切れるだろうしな」


「もぉ、せっかちですね」と瑞野さんは唇を尖らせて腕を組む。


「それとも何?最初からそんな手なんてなくてただ俺に近づいて二村に復讐したいだけだった?だったら今すぐお帰り願おうか。悪いが送っていけるほどデキた男じゃないんでヨロシク」と機械的に言うと、瑞野さんは俺の挑発に顔を引きつらせて


「分かりましたよ。じゃぁあたしが握ってる爆弾を観ます?それを見たら気が変わると思いますが?」


と、再びスマホを操作しだした。