俺は数あるメニューから1F某有名フランス料理店からクロソイのポワレ、枝豆ととうもろこしのベニエ、ラタトゥイユ、柚子バターソースと雲丹のクリームパスタと北海道フリットミストと赤ワインボトル、それから北海道大地牛サーロインと道産野菜のグリル、黒にんにくソースを選び、
瑞野さんは知床鶏もも肉とアイスバインのゼリー寄せ、焼きなすといちじくのアグロドルチェとオレンジジュースをそれぞれ頼んだ。
頼み過ぎか?と思ったが食ってなきゃやってらんねー、ってのが本音。
料理が来ると瑞野さんはスマホのカメラで写真をパシャパシャ撮りだした。瑞野さんと食事をしたことはこれがはじめてじゃないが、瑞野さんが料理を写真を撮るのを見るのは初めてだ。シロアリ緑川ならパシャパシャ撮っていたが。
「せっかくの記念なので、部長も一緒に写真撮りましょう。ツーショットです」と瑞野さんがにこにこ言い出し遠のけていた距離を無遠慮に詰めてくる。
何の記念だ。
と心の中で突っ込みながら「俺、写真嫌いだから」と苦笑いでまたも距離を遠のけようと尻をずらすと、瑞野さんがまた近づいてくる。とうとうソファのひじ掛けまで追い詰められた俺は逃げ場を失った。
瑠華なら嬉しいことだが、他の女と写真を撮るのは嫌いだ。昔からそう。俺は派手に遊んできたが、そのどれもが(紫利さんは除いて)俺と写真を撮りたがったが断っていた。どこでどうバレるか分からないと言う恐れもあるが、単なる遊び相手のケータイに俺の写真が収まってるかと思ったら嫌悪感しかなかった。最低だな俺。
大抵の女は三回程断ったら大人しく引き下がるが、瑞野さんは「お願いします」とどこか真剣みを帯びた目で俺を見てきた。
何に使うのか気になったが、怖くて何故だか聞けなかった。
そして俺は謎の気迫を浮かべた瑞野さんに根負けして一枚だけ、と言う約束で写真を撮ることになった。
「夜景がきれいに見える所がいいですから、この角度なんてどうですか?」と角の窓の方にスマホを持った腕を伸ばした。
「何でもいいよ」正直投げやりな気持ちだった。
内側カメラにした画面に俺と瑞野さんのツーショット、そしてその背後に見るからにホテルと分かる風景が映し出される。
「記念写真だからもっと笑ってください」と瑞野さんに指摘され、俺は何とか引きつった笑みを浮かべた。
パシャっ
思ったより大きなシャッター音が聞こえてきたが、俺にはこれが何かとてつもなく嫌な警告音のように聞こえた。



