Fahrenheit -華氏- Ⅲ


瑠華は言われるまま、カーテンの奥へと姿を隠し、そこからすぐ出て行ったのかはどうかは分からない。


「部長―――!」


それと同時に瑞野さんが病室に入って来るのが分かった。


そして大した怪我でないことも気づいたのだろう、「部長、大丈夫ですか」と瑞野さんが駆け寄ってきて、俺は大したことがないと苦笑いで説明すると、瑠華と同じように―――とは行かないまでも胸に手を置き深く体を項垂れた。


検査は明日必要みたいだが、一応の処置は終わったと言うところで


「もう今日は帰れるみたいだ」と言いながら俺はワイシャツを羽織り、ジャケットを手に取ったところで、車の鍵と家の鍵がついたキーケースが無いことを気付く。


「ヤベっ!家の鍵…車をけん引してもらうときそのまま…」鞄は手元にあるが、キーケースを助手席に置く癖がどうしても直らない。


「どうするのですか?」瑞野さんが心配そうに聞いてきた。


「どうするって……仕方ないから裕二の家に泊めてもらうとか……いや、あいつは女(綾子)と一緒か」


裕二と綾子が今日会うのかどうかは分からないが、あいつらだって付き合って最初のクリスマスイブだからぜってぇ一緒にいるだろ。


「どーすっかなぁ……今からビジネスホテル予約取れんのかな」と一人ブツブツ言っていると





「で、ではあたしの家に…」




と瑞野さんが言い出し、


――――は…!?


「いや、それはマズいっしょ。瑞野さんのご家族だって居るだろうし」


と言いながら、そう言えば………だいぶ前から瑠華とクリスマスを過ごす為にリザーブしたホテルのスイートがあることを思い出した。


運が良いのか悪いのか、まだキャンセルしてねぇや。てか単なるズボラな性格だからすっかり忘れてただけだけどね。


「一人で泊まるとか虚しいが、“あそこ”しかないしな~」と何も考えず思わず独り言をもらすと


「どこですか?あたしも行きます」瑞野さんが勢い込む。


「いや、ひ…一人で大丈夫だし」


「部長、あたしとクリスマス過ごしてくださると約束してくださいましたよね」


「う、うん…」でもそれは食事程度のことで―――






「あたしも行きます」






瑞野さんの真剣な目が俺を捉えていた。