あたしは―――夢を見ているのだろか。
喜ぶこともできず、ただただ間抜けに頬に手をやっていると
「Mom!」
もう一度呼ばれてあたしは目を開いた。
何度目を瞬いても消えることのない愛しいわが子。
「July!!?」
ユーリは今一番見たくない男、元夫のマックスに手を引かれていた。ユーリを挟むように居る大男は
「Tim!」
手を上げた瞬間、ふわりと握られていた風船が宙に舞い上がった。
マックスが走って来る。抱き着かれたら、と思って身構えたがマックスはあたしの目の前で軽くジャンプすると風船を取り戻した。
「わぁ!!ステキ!」
「かっこいい!!え!ハリウッド俳優!?」
と周りから女性たちの黄色い声が聞こえてきたが、それすらも耳を通り抜けていく。
「Here you are.(はい、どうぞ)」
無言で風船を受け取りそれに『Thanks.(ありがとう)』も返さずマックスを睨み上げていると、ドンと太もも辺りに小さな衝撃を受けた。足元を見下ろすと小さなユーリがあたしの足に抱き着き絡まっていた。
「Mom, I finally got to meet you. Dad says if July is a good boy, he'll meet Mom.
(ママ、やっと会えた。ユーリがいい子にしてたらママに会えるよってパパが)」
マックスが言い出したの―――?
そしてふと思い出した。そう言えば前回マックスとバーで飲んだときこいつはこんなこと言ってったっけ。嘘の約束とばかり思っていたが。
「You might need it next time.(次回は迎えは必要かもね。
The next time I'll be here is in a two month.(次、来るのは二か月後、)
I'll get July.(ユーリを連れて)」
あたしは目を開いた。思わず口元を両手で覆う。
二か月前……
「Why don't we spend Christmas together as a “family of three”?
(クリスマスを“家族三人”で過ごさないか?)」
マックスの提案に低く笑ってやり過ごしたのは2か月前の話。
「I was stunned. Now you're going to use July as bait to hook me? I hate to say it, but do you really think I would believe such a lie?
(呆れた。今度はユーリを餌にあたしを釣ろうって言うの?生憎だけどそんな嘘信じると思う?)」
あの時あたしは確かにそう思っていた。
「I'm not lying.(嘘じゃない)」
マックスはきっぱりと言い切ったが、ずっと嘘だと思っていたのに。



