Fahrenheit -華氏- Ⅲ


予想通り、山手通は渋滞していた。渋滞を予想してきたから、十分間に合うっちゃ間に合うが。音楽を聴く気にもなれず俺は何となくラジオを流していた。


『関東甲信越地方では今日から明日にかけて低気圧が発生し、今日の夜から明日にかけて雪が降る可能性があるでしょう。また積雪などで交通機関が一部麻痺する可能性もありますので移動の際には十分注意を…』


そう言えば今日はやけに冷える。Z4の車で移動中だったがエアコンマックスにしていてもまだ少し寒い。


納品をして前の担当者と少し話をして、それから―――俺は瑞野さんに会わなきゃならないのか。この寒い夜に瑞野さんはどこで待っているのだろう。ま、どこか適当な店で時間つぶししてるか。彼女でもないし、そこまで心配する義理はない。


瑞野さんの要求はただ一つ。一緒に過ごして欲しい、ということだけ。それこそファミレスでちゃちゃっと終わらせて帰るか、いやそれ以上を要求されたら―――?


慌てて首を横に振る。


瑞野さんはそんな風に見えなかった。


場所はちょうど恵比寿にかかっていた。恵比寿通りの大きな信号は青、黄、赤を繰り返していたが左折専用車線の道は一向に進む気配がない。信号を渡る歩行者が多いのだ。やはりクリスマスだから出歩くカップルたちの姿が目立った。何度目かの赤信号のとき車をPに入れ俺はハンドルに突っ伏した。


瑠華は―――愛するユーリと会えるのだろうか。


離婚してからのはじめての再会。俺のことなんて忘れて大切なひととクリスマスイブを楽しむのだろうか。




瑠華と―――会いたい。


瑠華と付き合っているときは、この日をまるで少女のように夢見ていた。愛する人とのはじめてのクリスマス。


なのに現実はどうだ。


せめて瑞野さんの考えてることが少しでも分かれば―――


ギリギリとハンドルを握っていると、ちょうど俺の車のいる恵比寿通りのわき道からエンジンの鳴る音が聞こえてきた。


顔を上げると同時、キキーっ!と耳をつんざくような激しいブレーキ音が聞こえてきた。


ブレーキの音、と気づいたのは数秒間かかかった。


眩しいヘッドライトの光が運転席の窓の外に照らし出され思わず目を庇った。


横を向いたままやがて間直に迫った黒い車を目の前にして、




俺は目を開いた。




真っ黒い車体がまるで死神のように俺の車に突っ込んでくる。



その後の記憶は





ない。