「はぁ……どこかにいい男落ちてないですかね。高給取りとは言わないまでもちゃんと真面目に働いてて、イケメンを望んでるわけでもないし、あたしのことを大切にしてくれる、あたしだけを見てくれるひと」
マナミさんはため息を吐いた。
「きっと見つかりますよ」
あたしの言葉を瑞野さんが代弁してくれた。
「そうですよ、あなたは顔も性格もとても可愛らしい。すぐに見つかります」
あたしが言うとマナミさんは顔を赤くしてほんのちょっと笑った。
「お二人に言われてちょっと落ち着きました。ありがとうございます。柏木補佐は、彼氏さんがいますけど瑞野さんは……」
”彼氏”って言うのはきっと葵さんのことね。あたしの言った言葉を信じてくれるマナミさんは本当に可愛い。
マナミさんが瑞野さんに話を振り
「えーっと…あたしはまだ……あ、でも
好きなひとはいます」
好きな人――――それは啓のこと―――?
色々聞きたかったことはあったけれど、怖くて聞けなかった。
もし、瑞野さんが本気で啓を好きならあたしは太刀打ちできるのだろうか。
この圧倒的不利な状況で。
あたしはすっかり冷めて麺が固まっていた味も感じられないソース焼きそばを口に入れながら、しかしマナミさんと瑞野さんの会話は耳をすり抜けていくばかりだった。
その日も仕事は早く終わった。
アメリカの多くの企業がクリスマス休暇に入っているのも理由にあるが瑞野さんの参戦は本当にありがたい存在だった。
さすがおじさまの元で働いていた秘書なだけある。
佐々木さんも定時に上がることができ、あたしたちはほぼ同時に仕事を終えることができた。
「か、柏木さんこのあと予定ってあります?もし良かったらこないだのブックカフェ行きませんか?お勧めのマンガがあるんですよ」と佐々木さんに誘われたが
「ごめんなさい、今日は疲れているので」と断ってしまった。「明日はマルーナホテルを借りてリハーサルでしょう?体力温存します」との言葉に佐々木さんは一瞬しゅんとしたものの
「そ、そうですよね~、僕何の考えもなしにすみません」
いいえ、佐々木さんは何も謝ることがない。悪いのはあたし。
「あたしもお先に失礼していいですか?」とここに来てほぼ定時に帰っている瑞野さんを誰も引き止めなかった。
きっちり仕事をこなし、必要以上のことを先回りして気を遣ってくれる彼女に誰も「残業しろ」とは言わない。
ありがたいことだけど、今は―――瑞野さんの顔を見られない。



