Fahrenheit -華氏- Ⅲ


急に、ふいに忘れかけていた過去が現実へ鮮明に浮き上がってきた。


「失礼、あまりいい言葉ではないので。後は私に任せてください。あの男に制裁を加えなければ」


あたしは―――伊藤と名乗る男にマックスを重ねたのだろうか。


「制裁って、俺が言うのもなんだけどあんま首を突っ込まない方が」


「マナミさんは私にとって大切な人です。そんな彼女を弄んでいるあの男が許せません。ああゆう男が世にはびこっっているので女はいつもいい扱いされて飽きたらポイっとゴミのように捨てられんですよ。許せない」


手をぐっと握ると、葵さんは肩をすくめた。


「何か、妙に説得力があるような……もしかして経験談?」と聞かれ


あたしは弄ばれて捨てられた経験はないけれど、度重なる前の伴侶の浮気で失敗した身。マナミさんを大切に思っているのは本当だが、どこか大義名分が欲しかったのかもしれない。ハエのように煩わしい存在を潰す理由が。


「まぁ瑠華ちゃんを怒らせると怖いって俺は知ってるから、止めないけど危険なことしないでよ?」


「しませんよ。少なくとも私はあの男よりバカではないので」


しかしあの男はマックスよりもバカなことは確かだ。これだけ証拠が揃っていたらあとは畳みかけるだけ。


葵さんは顔をくしゃりとして無理やり笑い




「まぁ?危険なことがあったら俺が守るけどね」





と至極真剣に言った。