Fahrenheit -華氏- Ⅲ



ふぅ、助かった、と思いきや


「その納品て時間が掛かるんですか?」一部始終の話を聞いていた瑞野さんが目をぱちぱちさせながら聞いてきた。


この流れだと……


「じゃぁあたし終わるまで待ってます」


来たぁ!!


何っで、そーなる!


これはシロアリより手ごわいかもしれん。


―――――

――


結局、逃げてきてしまった。


俺は今喫煙ルームにいる。ベンチに座ってタバコを吸い太いため息とともに煙を吐き出していると、陰険村木が喫煙ルームに入ってきた。


村木もタバコに火を点けると


「これは、どういった意味ですか?」と仕事用の携帯を開いて見せてきた。そこにはさっき俺が瑞野さんに嘘までついてメールを送った文面が綴られている。


”詳しくは後で話します。24日の午後そちらから俺に仕事を振ってもらえませんか?お願いします”


「私があなたに直接言ったら不審がられるでしょう。ですから内藤チーフにお願いしましたが、わけというのは?」


当然、聞いてくるよな。


――――


「は!?女性に言い寄られて断る口実が欲しかった?」村木は呆れたように顔を歪め


「そんなの幾らでも言い訳できるじゃないですか。違う女性と約束があるとか何とか」


「そーなんですよねぇ…」


がくり…俺は項垂れた。


「前はもっとうまくやってたんスよ」


「でしょうね」村木はあっさり。


「何で俺、こんなに不器用になっちまったんだろう……」


ぼんやりとガラスの壁の向こう側を見ていると、ちょうど瑠華と佐々木が資料室から戻って来る所だった。二人は何やら会話をしていて喫煙ルームの俺たちの姿に気づく様子はない。


瑠華―――


瑠華は長い髪を優雅になびかせて、時折耳の横の髪をかきあげ、そのときにちらりと見えた白い耳たぶに大き目のゴールドのピアスが光ったのが。


瑠華が身に着けるものだ。きっと18金に違いないだろうが、その輝きよりもなお瑠華自身が発する輝きがまぶしい。


瑠華、俺は君の存在を知って、君のぬくもりを知って、君の香りに包まれて


色んなことが普段通りできなくなっちゃったよ。


俺、諦めが悪いのかな。





やっぱり24日は瑠華と過ごしたいよ。