Fahrenheit -華氏- Ⅲ


思わず親父と綾子と瑞野さんを凝視する。綾子に『どうして!』と聞きたかったが、その視線に気づいたのか綾子もちょっと困惑顔で『さぁ』と言いたげに肩をすくめてみせた。ってことは綾子も何故自分が呼ばれたのか分かっていない様だ。


瑞野さんの方をちらりと見ると今日はいつもより顔色が悪いのか、或いは緊張でもしているのか体を強張らせて俯いている。


ポーン…とエレベーターの開く音が聞こえ、後ろを振り返ると


「What!?24日?クリスマスに?また急ね」とスマホを耳に当てちょっと顔をしかめながら瑠華がゆっくりとした足取りで歩いてくる。ピンヒールの靴音がやけに大きく聞こえた。


「いいけど」瑠華は腕時計を眺めながら「18時成田到着?OK、迎えに行く。心音一人じゃ心細いだろうし。空港内で食事して帰りましょ」


相手は―――心音ちゃん?心音ちゃんがクリスマスに来日する?


クリスマスイブ、あのピンクの髪の男と過ごすんじゃなかったのか?


訳が分からず、今すぐここを立ち去りたいのに足が地面に吸い付いたように動かない。


だめだ。ここで俺が棒立ちになっていたら瑠華に怪しまれる。


瑠華が通話を切って顔を上げる瞬間、俺は彼女に背を向けた。


本来、来客が待ってるであろうテーブルセットに足を向けると同時


「お待たせいたしました」と瑠華の声が背後から聞こえた。親父と綾子、それから瑞野さんに謝っているのであろう。


この先、三人がどこへ行き、どんな会話をするのか気になったが、後を追うなんて無粋なことはできない。


それこそ瑠華に完全に嫌われてしまう。


それだけは避けたい。