Fahrenheit -華氏- Ⅲ


♠ K ♠


20XX年12月14日水曜日


昨日、瑠華が二村に喧嘩を……と言うか売ったのは二村の方が先だよな。瑠華はそれに応戦しただけだけど。


『二村さん、あなたも。”本命”とクリスマスイブ過ごせないからと言って私に八つ当たりしないでください』


『やだなー、柏木さん。俺が二股掛けてるみたいな言い方やめてよ。俺の本命は葉月一人だけだよ』


『あら、あなたの股は部長より緩いとお見受けしますが?


訴えたければどうぞ?こちらは証拠が揃っているので。


ああ、言っときますけどハッタリなんかではないので。私はそんな子ズルいことしません。あなたと違って。


潰すときは潰す。


私が『潰す』と言ったら本気でそうしますので、あなたも十分に気を付けてください。


ああ、それと?私はあなたと違って複数人を相手にする器用な真似はできませんので。


私がクリスマスイブを過ごす相手はただ一人。


綿あめみたいな可愛い男の子、私に紹介してくださってありがとうございます。私には年下の操りやすい男の子の方が合っていたようです。


おかげさまで寂しいクリスマスイブを過ごさず良かったです』



俺はひたすらに昨日の二村と瑠華のやり取りを頭の中で繰り返し思い描いていた。


瑠華は―――やはり以前会ったピンクの髪のあのチャラそうな男とクリスマスイブを過ごすのだろうか。


いやだ。行ってほしくない。それが瑠華の作戦だとしても。


けれどそれを言う権利なんて俺にはない。


それに二村が緑川と瑞野さんの間で二股掛けてる証拠って―――?瑠華、今勝算がない勝負を吹っ掛けない方がいいのでは―――?


考えている最中に


「……ちょう、部長」


と声を掛けられ、ドっキーン!


「は、はい!」


声が変な風に裏返った。


顔を上げると相変わらずの無表情の瑠華が


「今日、用がありますのでお昼休みを13時にしていただきたいのですが」


用?


ピンクの髪の男に会うのか?


と過ったが、そんな想像をしていると思われたら、頭の中を覗かれたら瑠華に顔向けできない程恥ずかしい。


結局、


「う、うん……いいよ。だったら俺と佐々木が先に入るね」としか答えられなかった。