Fahrenheit -華氏- Ⅲ



『What?(何の事?)』と惚けることもしなかった。


心音の反応に―――確信した。


マックスにバラしたのは心音の意図してやったことだ。けれど心音も誰かに―――ううん…



啓―――に頼まれたからだ。




啓は一週間ちょっと悩んだ、と言っていた。振り返るとそれぐらいの時から啓の様子が少しおかしかった。


心音を送っていく空港内でも、妙に心音の方を気にしているようだったし。だからあたしは二人を快く送り出した。


あたしに話せない話題があったとしても気にならなかった。


信用していた。


だから敢えて『何を話したんですか?』と聞かなかった。


けれどその時点で啓は悩んでいたのだろう。


急にどこかへ行こうと誘ってきて、そのうえそれ以上のことはしない。気分じゃないのかと思ってあたしもそれ以上を求めなかった。そもそも体の繋がりだけが全てではないのだ。


あたしには一緒に居て、二人同じ景色を見て、同じものを食べて、二人で顏を見合わせて笑い合える、それだけで充分幸せだった。


啓は時々、『どこか遠くへ行きたい』と滲ませていた。


あたしたちの最後のキスは―――




あのリムジンの中。



キスと一緒に、リムジンに感情を置き忘れてしまえれば楽なのに―――


啓は自分を『強くない』と言った。


それはあたしも一緒。




あたしだって強くない。



あのリムジンは―――今、どこへ向かっているのだろうか。