Fahrenheit -華氏- Ⅲ



携帯を持つ指先が雨で濡れているからか、滑りそうになりながらも何とか持ち堪える。


それは、自分の足取りと一緒だ。本当は―――何かに掴ってないと今にもふらつきそうだ。


『目的』と『感情』がないまぜになり


気持ち悪くて胃液がせり上がってきている。その苦しみだろうか涙が出そうだ。それを呑み込むようにあたしは何度も鎖骨辺りを手で押さえた。


その場所に、啓とお揃いで下げたリングが揺れていた。一度チェーンが切れて、新しいのに変えたばかりだ。


その冷たい指先に、雨より冷たい感触だけが触れては離れ、触れては離れ…を繰り返している。


『Hey,瑠華、大丈夫?何があったの?順を追って説明して』と心音が本当に心配そうにゆっくりとそう言って、その声のリズムとトーンは、いくらか落ち着きを取り戻してくれた。


あたしはさっきのカフェ『アロマルージュ』で話した内容を話し聞かせた。


地下鉄はやめて、徒歩で帰るにはちょうどいい話題だ。


全てを話し聞かせると


『Darn it !(ちっ!)』心音は舌打ち。けれど『それでケイトがあんたと別れるって?そんなことで?あんたの言い分も聞かずに?』と心音はさらに声を低めた。


「それは―――……」


あれが本心なのか、そうじゃないのか分からない。


ただ、あたしはまだバカみたいに縋りつきたいのかもしれない。


『二村さんに卑怯なことを言われたんでしょう。


本当は本心じゃないんでしょう?』


と、でも?


「ねぇ、心音、あたしたちが昨日ハロウィンパーティーするって言ったの覚えてたよね」


『Ye――ah!(ええ)』心音はあっさりと言った。





「Who asked you to do that?(誰に頼まれたの?)」





あたしの質問に、心音は沈黙した。