Fahrenheit -華氏- Ⅲ



♠ K ♠


瑠華が会長室から戻ってきた。


その顔は何事もなかったようにあっさりしたものだった。


どうしよう……何故、会長室に向かったのか綾子にでも様子を聞いてみようか…とちらりと思ったが、どうしてそんな回りくどいことするのか逆に聞かれたらどう答えていいか分かんねー…


しかも最悪なことに佐々木が昼休憩に入ったばかりだ。


つまり小さな部署には俺と瑠華二人っきりと言うわけ。


左腕を自ら傷つけたのか、それを知りたいが―――


知ったところで、今の俺が何かできるわけでもない。


極力口を利きたくない……いや利けない俺は佐々木の不在の理由をこちらから言うこともなかったし、瑠華も聞いてこなかった。


再び仕事を始めようとする瑠華に、


沈黙に耐えきれず


「あ……佐々木も昼に入ったしさ、柏木さんも…」結局俺が切り出すことにした。


瑠華はちょっと考えるように視線をデスクに落としたまま、しかし


「ありがとうございます。お先に入らせていただきます」と素直にバッグを手にして立ち去って行った。


「はぁ…」


独りきりになったブースで大きなため息が出た。


たった半日だって言うのに―――


社内恋愛の別れの後がこんなに辛いものだと、分からなかった。


前までは社内の女に手を出さなかったのは、こうゆう面倒なことを避ける為だった。


でも―――面倒以前の問題だ。




辛い


悲しい


辛い




―――切ない




形は違えど負の感情がごじゃまぜになって、俺の頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


一体、どれだけ経てばこの苦しみから解放されるのか


いつになったら穏やかな目で瑠華を見れる日が来るのか―――



分からない。