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遡ること数時間前。
今日、瑠華は早く帰っていった。もしかして重役の誰かを尾けていくのか、と思ったが流石にそれはないだろう。瑠華はどの役員が参加するのか知らない筈。
ちらり、と瑠華の服装をチェックすると、上品にくすんだミント色のリブニットワンピースだった。リブから流れるように裾がプリーツになっている。
今日も抜かりなく可愛い。
けれど、特別感は無いように思えた。ついでに言うと尾行向きでもない。
ワンピースより少し黒いトーンのジャケットと白のディオールのバッグを手に
「お先に失礼します」と言って、今日も佐々木より早く帰っていった。
「最近柏木さん帰るの早いですね。昨日もすごく体調悪そうだったし大丈夫ですかね」と佐々木が心配そうに彼女の姿を見送っていた。
「彼女だってプライベートが忙しいんだろう。定時までしっかり仕事上げてくれるし問題ない。それに今日は……普通っぽかったし」とそっけなくなっちまった。どうしても瑠華のことになると必要以上冷たくなる気がしたが、佐々木は気にしてない様子だ。
「プライベート……かぁ…やっぱり“あの時”柏木さんに声掛けてたひと…彼氏だったのかな…、柏木さんの不調ってあのひとのせいじゃ…」佐々木は俯き加減で独り言を漏らしながら、書類を整えている。
俺は書類に文字を書きこんでいたところだが、
コロンっ…
ペンが指からすり抜け、デスクの上に転がった。
彼氏―――…
声を掛けてきた――――……?
俺は思わず目を開いた。
それって、俺が二度程見かけた若い―――……
二村が仕掛けたハニートラップの男―――?



