Fahrenheit -華氏- Ⅲ



♥Ruka♥



ー「瑠華ちゃんはどこへ行こうとしてるの?」



葵さんの言葉はとても抽象的で哲学的でもあった。


どこへ―――


「そんなのあたしが知りたいわよ」



ザー……


あたしの言葉はシャワーの音がかき消して行った。



もし、二村さんのもくろみを阻止しても、啓の気持ちがあたしに向いてなかったら―――


あたしがしようとしたこと、してること


意味があるのだろうか。



でも…




『君なしじゃ、俺は―――


俺こそどうやって生きていけばいい』



『―――信じて欲しい』



あの時の啓はまるでお姫様に赦しを乞う騎士(ナイト)のようだった。


あの時、もっと啓の顔をちゃんと見れば良かった。左右で違うあのきれいな瞳に自分が映しだされていたのか


ちゃんとみるべきだった。


言葉じゃ足りない。



温度が欲しい。




あたしの手に触れて。


抱きしめて



キスを―――




あたしはきゅっと身体を抱きしめた。


保湿力の高い入浴剤の入った湯に長く浸かってたからか、手のひらにしっとりと肌が馴染む。


けれど啓の温もりを思い出すだけで、ただ


虚しい。



―――

――――



バスタイム後、バスローブ一枚だけ羽織り、まだ濡れている髪をタオルで拭いながらキッチンへ向かい冷蔵庫を開けると、啓の愛用していたメーカーのビールが残り一缶になっていた。


それを飲もうかと思ってやめた。


何故、存在を消したいのに―――消し去れないのか。


何故、想いを断ち切りたいのに―――絶ち切れないのか。



ビールは結局ギネスビールにした。