♠ K ♠
遡ること数時間前―
瑠華は何事も無かったかのようにデスクに戻ってきた。
そのまま帰るかと思ったから正直驚いた。
ー『死なせて』
瑠華の―――泣きながら言ったあの一言は俺の心臓にナイフを突きたてた。
俺は―――瑠華を死に追いやろうとしていたのだ。
俺は見誤ったのだろうか。会社や瑠華の立ち位置、たとえ瑠華がクビになろうと、俺も巻き込まれ最悪的には親父も解任になろうと、一つの『生』に比べたらちっぽけなものだ。
手に手を取って、地の果てまで逃げて―――
俺は―――やっぱり選択を誤った。
『君なしじゃ、俺は―――
俺こそどうやって生きていけばいい』
思わず本音を言ってしまった。
これじゃ瑠華の気持ちを揺さぶるだけじゃないか。
でも、紛れもない本音だ。
俺の気持ち―――少しは伝わっただろうか。
いや、伝わったらそれこそ混乱させちまう。
瑠華は何事もなかったかのように仕事を進めようとして、
「あ、すみません。これ部長の上着…お借りしてました」と丁寧に畳まれたジャケットを渡されたとき、少しばかり充血した瑠華の瞳に目がいった。
一瞬目が合った、気がしたけれど、あくまで『気がした』だけだ。
独り歩きした噂話に瑠華が心を痛めているのか、或は他の理由か、
けれど、瑠華がそんな風に考え込む理由
俺が原因って
ちょっとは自惚れてもいいのかな。
瑠華はまだ俺のこと好きでいくてれるって
自惚れてもいいのかな。



