Fahrenheit -華氏- Ⅲ


♥ Ruka ♥


啓はいつもより遅い時間にお昼休憩に入った。


はぁ…


今日何度目になるか分からない小さなため息を誰にも気付かれないようこっそりつく。


こっそりついたつもりが、佐々木さんに知られてしまったようで


「柏木さん……もしかしてあの噂…」


「噂?」あたしは何の事か分からず首を傾げると


「いえ!知らないのならいいです」と慌てる。


何の噂だろう。まぁこの会社での噂は殆どが根も葉もないもので、どれも大したも事柄ではない。


あたしがため息をつく理由―――


昨日、“ほしの屋”に啓と瑞野さんは何で一緒に居たのだろう。結果的に桐島さんも一緒だったけれど。


でも葵さんを使ってまで二村さんは、あたしを陥れたいようだ。


啓のこと、嫌いなフリをすればいいのだろうか。


いっそのこと、自ら葵さんと付き合ってるとでも言えばいいのだろうか。






―――分からない




考え事をしているからか、或はランチ後だからか、集中力が持続しない。


エクセルの表の数字が二重、三重になってぼやけている。


単なる疲れ目かもしれないけれど。


あたしは給湯室でコーヒーを淹れてこようと立ち上がった。