Fahrenheit -華氏- Ⅲ


♠ K ♠


まっすぐに歩けない瑞野さんの腰を支え…決して下心があったわけじゃねぇぞ!


何とかタクシーに乗せた。


タクシーに乗り込むと瑞野さんはぐったりと首を窓側に横たえて、目を閉じていた。


俺は彼女にシートベルトを着け、自身も装着しながら


「すみません、横浜方面まで」と伝えた。


タクシーが走り出し


「あ、綾子?悪りぃな、こんな時間に。瑞野さんの住所って分かる?」と電話で聞くと


『分かるけど、あんた何しようとしてんの?』と疑うように声を低める綾子。


『何なに?』と遠くで裕二の声も聞こえる。


相変わらず仲いいのな、お前ら。


「成り行きで瑞野さんと飲むことになったんだけどさ、彼女酔いつぶれちゃって、んで家まで送ろうかと思うんだけど」


『成り行きぃ!』綾子がまたも声を荒げる。


キンキン響く声に俺はケータイを耳から離してしかめっ面。


「詳しいことは明日話すから、頼むよ」と言うと、


『分かったわ。調べてすぐメールする』と。流石に仕事が早いな。


綾子からのメールは5分も満たないうちに届いた。


住所の所在地を運転手に告げ、目的地もはっきりした。


つ…疲れた……


俺は片手の人差し指で喉元のネクタイを緩めた。


本当に―――



疲れた。