Fahrenheit -華氏- Ⅲ


♥ Ruka ♥


TUBAKIウエディングの香坂さんを見送ったその時だった。


啓と瑞野さんが一緒に待ち合わせてランチに行こうとしていた所に偶然にも居合わせてしまった。


何て間の悪い。


あと数分、ううん数十秒でもズレていたのなら―――


そう思っても遅いし、どうしようもない。


一瞬、啓から……いいえ二人から顏を背けてしまった。






見たくない。





心臓の奥がチリチリと焦げ付くかのような―――


醜悪な嫉妬心が顔に出そうだった。


啓と瑞野さん―――お似合いだ。


始終無表情で冷たいあたしなんかより、可愛くて優しい瑞野さんの方がずっと―――


啓を取り戻す、と思っても急にくじけそうになる。


心が折れそうになる。


本当は啓も瑞野さんのような―――可愛くて素直な人の方が好きなのだろうか。


感情が爆発してみっともなく叫び出しそうになる前に、あたしは自ら彼らに背を向けた。


―――

―――――



昼休憩は近くのカフェでサンドイッチ一つとアイスティーで済ませた。


今頃、啓と瑞野さんはどのカフェでランチをしているのか、何を食べ、何を喋り、時間を場所を、会話を共有しているのか―――


バカなあたし。想像したら余計虚しくなるって言うのに、考えを止められない。


美味しいと有名な筈のサンドイッチはちっとも味を感じられなかった。


もそもそとそれを食べながら、あたしは昨日、一昨日のことをぼんやりと思い出した。


啓と別れてはじめて過ごす一人の週末。


少し前まで、当たり前のように過ごしていたのに、その日常が『当たり前』じゃなくなったとき、あたしはまた言いようのない寂しさと不安に襲われた。


けれど、“馬鹿げたこと”はしなかった。したところで意味がない、と気づいた。


落ち込んでいる暇などない、と言いうあたし、そして寂しい、悲しいと思うあたし。


二人の“あたし”がひっきりなしに顔を出し、バカげたことをする間も与えられなかった。


それでも寂しさを紛らわせる為、あたしはマンションのフィットネスやプールを利用したり、本屋さんに行って佐々木さんが勧めてくれた漫画の続きを買い、読みふけったり。


とにかく何かを考えたくなくて、あらゆることを試した。


おかげで週末を何とか乗り切ったと言うのに―――


その『何とか』が一気に崩れ落ちた気がした。


それはあたしの中でハッキリと音を立ててガラガラと崩れ堕ちる。