Fahrenheit -華氏- Ⅲ



♥ Ruka ♥


目を閉じて、深呼吸する。


視界意外の全ての感覚に頼り、その感覚を研ぎ澄ませて―――


銀のスプーンとフォークのぶつかる音、高級なお皿が重なる音。


緩やかに流れるクラシックのBGM。決して小さくないけれど、会話の邪魔にならず控えめなちょうどいい感じ。


鼻で感じるのは、様々なスパイスで味付けして、絶妙な火加減で調理されたお肉や魚料理。ワインや、ブランデーの


甘く、優しく、香ばしい―――…


けれど、耳の奥で、まるで砂のようにざらつくこの嫌な感覚。


忘れようとしても忘れらない。


「Welcome to the Valentine's family.(ようこそ、ヴァレンタイン一族へ)」


あの、憎きマックスの顔。あたしの向かいの席で彼はワイングラスを傾けていた。





―――目を開くと、





「お待たせ」




名も知らない―――“彼”


以前、あたしが“彼”を見た時、彼は黒い革ジャン、ダメージ加工のジーンズ姿だった。


けれど今日はグレー生地に黒い線が走ったタータンチェックのセットアップスーツ、黒いワイシャツと同じく黒いネクタイ。先日は無造作だった髪型はきちんとセットしてあった。ただ、綿あめのような髪は流石にかえれなかったのかそのままだ。


前に会ったときは未成年かもしれない、と思っていたけれど、こうやって見ると、二十前半に見える。服一つで見方が変わるのだから不思議だ。


「お待たせ」


名も知らない彼はまたも言って気軽に手をあげた。まるで長年の知人に挨拶するかのように。


「10分遅刻です」


あたしが腕時計を見下ろしながら淡々と答えると


「だってぇ、ドレスコードだって聞いたから。服を探してたから」と彼は子供のような言い訳。


そう、あたしは今、自分で予約した東京駅の高級ホテルの、これまた高級フレンチに居る。


彼を招待したのは、勿論あたし。


「話したい事って何?」


ギャルソンが恭しく椅子を引いて、その席に落ち着くことなくせっかちに聞かれ


「食事をしながらしましょう。


大丈夫です、ここは私の奢りですので」とわざと小首を捻って、挑発的に笑うと


「ひゅ~♪」彼は口笛を吹いた。


「かっこいいね、おねーさん♪」


どうとでも言って?


あたしの




ジョーカー