「……ね、ねぇ、いいの? あの子、置いてきちゃって……というか、手! 何さり気なく握ってるんですか!」
「あぁ、いいんだよ。本当に知らない子だし」
――いやいやいや。名前を呼ばれてたじゃない。どう考えても顔見知りでしょう。
でも黒瀬くんにそれを言ったところで無駄な気がするので、もう諦めることにした。
まだ黒瀬くんと会って数分と経っていないはずなのに、凄く疲れた気がする。
私が諦めたことを悟ったらしい黒瀬くんは、にこにこと笑いながら、繋がれた手に力を込めた。
「というか、いつの間に私の連絡先を……いや、やっぱりいいです」
昨夜本当に黒瀬くんから連絡がきて、かなり驚いたのだ。
いつの間に連絡先を交換していたのか全く身に覚えがなくて、今日会ったら確認しようと思っていたのだけど……それを聞く気力すら、今の私にはない。
「あはは、いいんだ。まぁお姉さんって隙だらけだしね。男に対して、もう少し警戒心を持った方がいいんじゃない?」
――君がそれを言うのか。
口には出さずにジト目で見るだけに留めておいたのは、黒瀬くんが言うことも一理あると思ったからだ。
確かにあの日はかなり酔っぱらってしまったから、バーでもホテルでも、私のスマホを見るタイミングは何度もあったのだろう。
――パスコードをどうやって解除したのかは、気になるところだけど。
それにしても、自分の自己管理力のなさに溜息を吐きたくなる。



