逃げられるものならお好きにどうぞ。



「お姉さん、おはよう」

「……おはようございます」



女性をその場に置いて近づいてきた黒瀬くんは、今日もイケメンオーラ全開で、だけどどこか胡散臭く感じるような、爽やかな笑みを浮かべている。



「このまま現れなかったら、お姉さんの家まで迎えに行こうと思ってたんだけど……きてくれてよかったよ」

「……」



――家まで迎えにくるとか、勘弁してほしい。


顔を引き攣らせていれば、先ほどの可愛らしい女性が近づいてきて、後ろから黒瀬くんの腕を掴んだ。



「ちょっと椿! まだ話は……って、何? もしかして、新しい彼女?」



上から下までジロジロと不躾な視線で見られて、居心地の悪さを感じる。



「ふぅん……椿のタイプとはだいぶ違うんじゃない?」



――そうなんですね。でも別に私は彼の彼女でも何でもないので、どうぞこのまま彼を連れてどこへでも行ってもらって構わないんですが。



さすがに口に出す勇気はないけれど、心の中で、このまま二人で何処へでも行ってください、むしろ彼を連れて行ってくださいと、念を送っておく。


何も言わない私に気をよくしたらしい女の子が、ふふん、と満足そうに口角を上げて、黒瀬くんの腕にしがみつこうとする。