逃げられるものならお好きにどうぞ。



***


黒のタートルネックにダークグレーのチェスターコートを羽織り、その長い脚には黒のスキニーパンツ。

全体的に真っ黒な格好をした黒瀬くんが、駅ビルの前に立っている。


その佇まいは、そこらのアイドルやモデルにも引けを取らないくらいに格好良くて、人目を引いている。



けれど黒瀬くんは、一人じゃなかった。

傍にいるのは、ブラウンのトレンチコートを着こなし、ショートパンツを履いて細い足を惜しげもなくさらけ出している可愛らしい女性。


遠目に見た時はナンパでもされているのかと思ったけど……どうやら違うらしい。

黒瀬くんの腕を掴んだ女性の鬼気迫った表情が、それを証明してくれる。



「椿ってば! ちょっと聞いてるの!?」

「……」



大きな声でわめく女性と、完全無視を決め込んでいる黒瀬くん。

足を止めてそのままUターンしようとすれば、黒瀬くんの真っ黒な瞳がこちらに向けられる。


――目が、合ってしまった。