「お姉さん、こんばんは」
仕事を終えて、星一つない真っ暗な夜道を一人で歩いていれば、道沿いのガードレールに腰掛けて待っていたのは見覚えのある黒髪の男の子だった。
「……また待ってたんですか?」
「うん。お姉さんに会いたかったからさ」
「……正直迷惑です」
「お姉さんがそう言うから、会社から少し離れた所で待ってただろ? 此処なら人目につかないし」
何と返してもニコニコと楽しそうな顔をして笑っているこの男の子は、黒瀬椿くんというらしい。
歳は二十四歳。私の予想よりも幾分か若かった。私より四つも下だ。
落ち着いた所作や大人っぽい雰囲気でそう見えるのだろうか。
あのバーで出会ってから二日後。
もう会うこともないと思っていたこの男の子が、私の職場の正面玄関前に立っている姿を見た時は――幻覚でも見ているのかと思った。



