「さっきの泣き顔。あれ、久し振りにゾクゾクしちゃったな」
――泣き顔……自分では気づかなかったけど、路地裏に連れ込まれた恐怖で、無意識のうちに涙を流していたらしい。その顔を見て、気に入られたってことだよね? だとしたら……。
「きっも……」
男の子を刺激しないように言葉は選ばなければと思った矢先だけれど、今の発言は気持ち悪すぎる。
思わず口をついて出た言葉に、男の子はまた、愉しそうに笑う。
「あはは。女の子にそんなこと言われたの、初めてかも」
――多分今の私は、頭がおかしい奴を見る目をしているに違いない。……この子はやばい。頭のネジがいかれてるタイプの人間だ。とにかく、この場から一刻も早く離れよう。
此処から逃げる算段を必死に考えながら少しずつ後退っていれば、男の子が一歩二歩と開いた距離を詰めてきた。
身を屈めて、私の目線に顔を合わせる。
その瞳は変わらず気怠そうで、だけどその口許だけは、やっぱり綺麗な弧を描いている。



