逃げられるものならお好きにどうぞ。



「……殴られると思った?」



甘い声で、囁くようにして言う男の子は、読めない笑みを浮かべながらそのまま顔を近づけてくる。



「……何してるんですか」

「何って……キス?」



咄嗟に掌を顔の前に出せば、ふにゃりと男の子の唇が触れた。柔らかな感触。


そのまま手を引こうとすれば、反対に手首を掴まれてしまい――



「ひっ……」



――こ、この子、今、私の手を舐めた……!



ゾワリとした感覚。

男の子の手を払って引っ込めた手と一緒に、身体ごと一歩後ろに下がった。


私の反応に愉しそうに笑いながら、男の子はまた顔を近づけてくる。



「俺、お姉さんのこと気にいっちゃった」

「っ、……私の、どこがいいんですか? それにホテルで、私には欲情しないとか言ってましたよね」

「そんなこと言ったっけ?」

「言いました!」

「ん~、まぁ正直、俺のタイプではないんだけど……」



――だから、それはこっちの台詞!



喉まで出かかった言葉をぐっと押し込める。

さっきの衝撃的なパンチを見た後で堂々と悪態を吐くのは、さすがの私も躊躇してしまう。