逃げられるものならお好きにどうぞ。



「あの、」

「ん? どうしたの?」

「……助けてくれて、ありがとうございました」

「ああ、どういたしまして」

「それと、さっきのホテルでも……嫌な態度とって、ごめんなさい」

「何だ、そんなこと気にしてたんだ。別にいいよ、慣れてるし」



そう言った男の子は、本当に何にも気にしていないみたいな顔をして笑う。



「でも、それは……怒っていいことだと、思う。……私が言うのも何だけど」

「……そっか」



ぱちりと瞳を瞬いた男の子は、真顔で小さく頷いた。



「それじゃあ……」



突然右手を握りしめた男の子は、それを頭上まで持ち上げた。



――まさかさっきの男みたいに、私も殴られるのだろうか。



ぎゅっと目を瞑る。

けれど予想していた衝撃はいつまで経っても訪れない。代わりにやってきたのは――左頬を撫でる柔い感触。


そぅっと目を開ければ、思っていたよりもずっと近い距離に、男の子の顔があった。