逃げられるものならお好きにどうぞ。



「ちょ、離してください……!」

「まぁまぁ、俺ぁいい店知ってんだよ。行こーぜ」



そう言って私の腕を離さないまま、覚束ない足取りの男が向かう先は、薄暗い路地裏で。



――って、そっちはどう見ても行き止まりでしょ!



そんなところに店があるはずないことは分かり切っている。


両足を踏ん張って必死に抵抗しても、大男の力に敵うはずもなく、ズルズルと薄暗がりの中に引きずり込まれてしまう。



「だぁいじょうぶだよ。大人しくしとけば、痛いことはしないから」

「……っ、絶対にいや!」



男に掴まれた腕を振り払って、反対の手で持っていたバッグを男の顔目掛けて振りかざした。

大した威力もなかっただろうが、男を逆上させるには十分だったらしい。



「なぁにすんだよ姉ちゃん……大人しくしとけっての……!」



顔を真っ赤にした男が、腕を振り上げる。

咄嗟に目を閉じて、すぐに襲いくるであろう痛みに備える。



――都合よく助けに来てくれるはずもないって、そんなこと分かってるけど。



頭の中に、つい先ほどまで一緒に居た、綺麗な顔をした男の子の顔が浮かんだ。