夜の繫華街は、煌びやかなネオンと退社した人たちの解放感に満ちた声で賑わっていた。
花の金曜日であるこの時間帯は、いつもよりずっと人通りが多く感じる。
けれどそんな大通りとは一変して、人っ子一人いない薄暗い路地裏を少し進んでいけば、ダークブラウンの重厚そうな扉が左手に見えてくる。
埋め込まれたアンティークゴールドのプレートには“Bar curación”とスペイン語のお洒落な筆記体で店名が記されている。
この店は知る人ぞ知る、小洒落た雰囲気のいい、隠れ家的なバーだった。
「はぁ……」
そんな素敵なバーで吐き出した小さな溜め息は、私の右隣、一つ空けた席に座っている友人には届いていないのだろう。
友人であり職場の同僚でもある三奈に、最近倦怠期に突入した彼氏の愚痴を聞いてほしいと誘われて此処まできたはいいものの――当の本人は、気づけば見知らぬ男と仲睦まじくアルコールを飲み交わしていて。
……これ、私の存在なんて完全に忘れてるよね。
三奈がイケメンに目がないのは知っていたことだけど――これは、週明けにランチを奢ってもらうくらいのお詫びはしてもらわないと気が済まない。
楽し気に談笑する三奈をジトリと横目で見つつそんなことを考えながら、もう先に帰ってしまおうとグラスの残りを一気に飲み干した。
そのタイミングで、左隣に誰かが腰掛ける気配を感じる。
「お姉さん一人? 隣、座ってもいい?」
「……どうぞ」
――というか、もう座ってるじゃない。
そんな言葉は飲みこんで、短い言葉を返した。
私が返事をするよりも早く席に着いていた男は、慣れた様子でバーテンダーにカクテルを頼んでいる。
スマホを取り出し時刻を確認する振りをしながら、チラリと隣に視線を向けてみた。



