醜と美そして陰謀論、を物語る。


 場面は例の王族会議から。この広い会議室でありながら人数は少なく、彼らは互いに身を寄り添り合いその表情は強張り不安がっている状態であった。

 無理もない、三年前に亡くなった王がとんでもない爆弾を残してしまったのだ。テツとかいういままで一度も見たこともない行方不明者を王位継承者に指名するとはどういうことなのか? この爆弾はいまにも爆発しそうなのだが。

 王法の担当官も困り切っていた。前例が全くなくどうすればいいの分からない、こちらとしてはなんにも言えない、と。

 そうであるからこれはこの問題を超法規的にどうにかするというための会議であるが、その会議で音頭をとって仕切るものがまだ現れない。

 少し前であったら王妃が会議を仕切り、この指名書の破棄かどうかの采配を振るって互いに議論を行うことがスムーズに出来た。しかしその王妃は亡くなり、このいて欲しい時にいなくなってしまっている。

 王妃の最後の仕事が指名書を引き裂いて無効化したということにしても良いのだが、それを口に出して言いだすものもいない。それは危険なことだと皆が了解している。

 そうである、いま、ここに、権力の不在という空白状態が発生しているのだ。あってはならぬ状態であり国家の危機が到来している最中。

 よって可及的速やかに決めることは誰がこの会議における議長として場を取り仕切るのかということ、だがいったいどうやってその議長とやらを決めるのだ?

 その候補である王子が二人いるが、ではどっちがこの場を仕切るのだ? 誰も分からないし誰も決められない、これが権力の空白であり政治の危機となる。

 その政治の失敗が内輪揉めからの内乱だとしたらその一歩手前だ。つまるところ政治とは内輪揉めと内乱を防ぐことが目的であり、あのホッブスの『万人の万人に対する闘争』は自然状態の極限である内乱を防ぐために国家と法といった政治が必要だと説いたのだ。

清教徒革命という名のイングランド内戦による80万人以上の死を目撃し体験した彼は「リヴァイアサン」を著述し、それはまた再びの惨劇を繰り返さないでください、という祈りであった。

 ジンは無言のまま動かない、また、インも黙ったままだ。その背後にいる政治家たちも口を閉ざしたまま。今ここで殺し合いが起こってもおかしくはなく、また席を蹴って領地に帰り戦争の準備をしてもおかしくはない。そうならないための政治が必要であるがその機能不全に陥りつつあるのだ。

 この会議に出席できる人数は厳密に調整されている。特にジンとインの関係者は同じ数になるようになっている。互いに王位継承を巡るライバル同士であり少しの不均衡から関係の大きな崩壊が起こるかもしれない。

 これは王妃というどちらの王子の味方をしない中立的な調停役兼議長役がいたからこそ成立した均衡状態であった。繰り返すがその王妃はもういない。そしてその王妃の後継者もいない。よって下手に口を開いたら危険なことは互いに察している。

『ならここはひとつ議長はうちの王子にしてその仕切りでやりましょうか』と提案したら即座に相手は臨戦態勢になり文句を言うに決まっている。『いいや! うちの王子がそれをやるべきだ、お前らはひっこんどけ』と。

 どちらも王でないのならこれからの行動のひとつひとつが王になるための手段とないうるのだ。本人にその気がなくても相手はそう受け止めるし、その気があっても気取られてはならぬ不安定さ。

 敵同士は相手を悪く見るし話しも曲解して聞く。よってこの場にいるものでどちら側の勢力ではない中立的な立場のものが必要だが、いまこの場にそのような立場のものなど……いや、いた。

 この不安と不信が渦巻く沈黙の場の空気に対して微笑む男がここに一人いる、三男のトンである。
『殺し合え……ほら殺し合えよ、差せ! 潰せ!』と邪悪に期待しなんなら天にお祈りを捧げながら彼はニヤニヤしながら眺めている。

 両方の味方はしないし両方は敵認定という変な中立的立場である。お前らは共に滅びれば良いと信じて疑わない。自分の女神を殺されたことを今も怒り続けているものの復讐心がそうさせているのだ。

 そんなこやつがここにいるのはそういう悪趣味な面もあるが母である王妃の小言からでもあった。

『私が死んだらあんたが二人の間に立って仲裁してくれる役になってくれたら助かるんだけどねぇ』

 そうもはや王位継承に無関係だが王族としての立場的に一番近いものがそうしてくれるのなら理想的なはず。だがしかし御覧のようにトンは兄たちの仲裁などするつもりなどサラサラなく母親への孝行気分で会議には出席しただけである。

『せめて喧嘩でもしてくれたら来た甲斐があるんだけどなぁ』こんな不埒なことを考える始末である。相も変わらず親不孝の鑑で今日も今日とて母親泣かせである。草葉の陰を涙で湿らせる。

 トンはこのように駄目だ。所詮芸術家に政治は不向きなのか? よってその背後に立つ男に、そう我らがその内面をよく知る見た目だけは良い男に望みが託される。アラフォーな彼の背はあまり高くないが顔の彫は深く鼻は高い。そして口髭と髪の毛は真っ黒でありふっさふさ、と良い物を食って毎晩ちゃんと寝ていてあんまり苦労していない証拠でもあろう。

 その内面はクルクルパーである彼がこの緊張状態のなかで挙手をした。一同はそのアカメに注目する。男達は神経が研ぎ澄まされておりその場にいるものたちの一挙手一投足に反応する。

 どんな微かな動きでも目が反応するというのにあの男は元気よく手を挙げたのだ。おぉい! 上げた拳はいまさら下げられんぞ! どぅ落とし前をつけるんだゴラァ!? だったら死んで王に詫びてみろ! とか過剰反応からの不穏なことを言い出そうとするものさえいる。

 しかし……あれは誰だ? と皆が皆思った。トン王子はみんなよく知っている。芸術にうつつを抜かす痩せぎすの馬鹿王子で偉大なる王とは不仲で、帰京しても王妃にしか挨拶をしなかった王位継承キャンセルマン。

 そんな未来の無い王子に付くものは誰もなく政治的にほぼ無視された存在。あれはお付き? あートン王子の領地の政治家か。地方議員がどうした? お前の挨拶なんか興味ないぞ。

 アカメは冷たい視線を浴びるもまったく気にしない様子で大声で語りだした。

 次回「聖書の引用」ってカッコいいよね、でもそれって欧米コンプレックスじゃね? から始まります。