場面は数年さかのぼり王の臨終の時となる。
王は落馬した際に後頭部を強打し意識が遠のいていくなかで死を覚悟した。
かつてないほどの衝撃であるのに痛みの無さ、そうか自分はこれから死ぬのだと分かった。
というかもう死んでいるのかもしれない、いま自分は死んでいるかそれとも極めて曖昧なところにいるのだと意識する。
あおむけで見る太陽は光がいつもよりも強いと感じるなか、彼は自らの死を見つめそして光を見つめる。
『太陽と死はみつめることは出来ない』なる箴言があるがそんなことはない、現に王はその二つを行っている。
もはや身体の感覚はなく音も聞こえない。従者たちが慌てているみたいだがそんなものに構っている場合ではない。
ジタバタせずに見なければならない、死と光を。
瞬きもせずに光を見続けるその瞳は焼けていきやがてなんにも見えなく……ならない。
光しか見えなくなり意識も輝きと同化していくなかで頬も動かせぬ王は心の中で微笑んだ。
「また、あとで、がここだったのだね」と。
王は光をあの彼女だと認識した。王にとっての美のイデアは光でありそしてあの美と重なる。
最後の最後で自分を迎えに来るものはこれであり、あとで、とはここであったのだと。
死とともに光となって君と出会える、王は分かっていたあの美は光の中にいると。
そうだというのに三男も馬鹿だなぁと一度も絵を見ずに王は判断を下していた。彼女はあそこにいるじゃないか、とも教えなかった。
まぁいつか気づけ、そして愛が真実なら気づけるはずだとも。それに一生をかけるのは良いことだ。光に浸りながら王は言った。
「僕を許しくてくれるのか? いや違うな、君は僕を許してくれていたはずだ。罪はないとも言ってくれるはずだ。僕を許さなかったのは他ならぬ僕自身だったんだ。
そうだ僕は自分を許したかった……許された身で、清い身となり偉大となった僕は死んで君に会いたかったんだ
君が死んでから先ず僕は自分を殺した。死を常に横に置き政務に邁進した。
何故って立派になりたかったんだ。生まれ持ったものだけの男ではないと君に見せたかったんだ。
つまり見栄を張ったんだ。君の隣に立つに相応しい男になるためにね。
僕は見栄っ張りだから、それはもう全てを投げ打って見栄を張り頑張ったものだよ。
私心を、捨てた。君を殺したものへの復讐心を捨てた。一番苦しいことをすることにしたんだ。
僕自身が堪えれば良いことは堪えた。僕が捨てれば良いものは捨てた。
あらゆる苦しみを受けとめることにした。老いも抗わずそして醜さも受け入れる。
それは良く死ぬためにだ、君に会うために僕は生き方を改めたんだ。
どうしてそんなことをしたのかって? あの子のためだ。
テツのためだよ。あの子の未来のために隣国と遺恨を残してはならないだろ? 過去という呪いを遺してはならない。
今の代はあの陰謀とは無関係のものなんだ。それなのに僕があの無関係の王に復讐したらどうなる?
恨みはまた継続される。テツに返ってくる。だから僕で止めるんだ。僕が止める。僕の全てを用いればできるのならば、そうする。
そうして、こうした。これで俺の使命は終わった。エライだろ。ああそうだ僕はエラくなった。
愛する君に真実の姿を見せても少しも恥ずかしくない。真実を以て君の横にいられるようになった。
この事故で早く逝くのは残念だがこれも天命だ。でも準備は全て済ませている。
あとはあの子が十四歳まで待つだけだ。王法によれば王位継承権はその年齢からなんだ。
そうだよ、あの子は生きている。テツは、生きているんだ。
君と会えて僕は確信した。だって君の傍にあの子がいない。なら生きているのは確実だ。
まぁもとから僕は死んだなんて信じてなかったがね。きっと誰かに匿われているんだ。大きくなるまで隠れているに違いない。
僕の後継者指名書にはあの子の名が書かれている。公開されたらあの子は出て来る、あの子は王になるんだ。
これでやっと僕は自分を許せる。君の隣に立ってそして光となってあの子を見守れる……」
こうして目を光に焼かれたまま王は死に、そして功績から王から国の神に列なる。だから名は無く王と呼ばれる。神には名は必要なく称号のみでよい。
だが、最後の最後で神として間違えた。
間違えたからこそ王妃は神のままでいることを願い指名書を破った。
後継者はテツと書かれた紙を破り彼女は王妃としての役目に殉じた。しかし紙は破られても字は読めた。こうして王家のものを集める会議が開かれる。
神は去り名のあるものたちの物語が始まる。
長男の金(ジン)が次男の銀(イン)が三男の銅(トン)が王宮に集い、そして四男の鉄(テツ)に付き従う錆(サビ)と陰謀を発動させる、次章より王位継承をめぐる陰謀劇。
先ずはヒロインの登場から。
三章 反逆×クーデタ×陰謀



