かねてから用意していた計画を数十年ぶりに棚の上からおろし再検討。昔に作成された案であるために現在の情勢に合わせて修正が加えられる。
資料を片手にしながら軍師王妃が王に説明を始めた。
「隣国は強権的であったあの王の死後は政情不安に陥っています。後継者問題で揉め内部はガタガタになったり、災害で揺れたり溢れたりで流民が発生したり、地方独立運動の暴動で各地で荒れ、挙句の果てには疫病の蔓延で民が倒れ、とこれでもかというぐらいに歴史的不幸が国に注ぎこまれでおり、まぁこれまでの繁栄のツケがここにきて取り立てに来たかのような混乱っぷり。
どこを見渡しても付け入る隙しかありません。いわば千載一遇の機会ということです。よって手っ取り早く領土問題を解決するのであれば真っ直ぐに兵を進ませて取ることも今ならできます。王よ、如何でしょうか? これお勧め」
軍師王妃は王に問うた。
「……それやったとしたら将来に禍根を残すこととなる。それでは負の遺産だ。そうではなく正の遺産となるための方法を取ろう」
王の言葉に軍師王妃も頷いた。これは分かっていながらの敢えての問いであった。王は本気でこの問題に取り組むつもりなのだと。
彼女は二つの案を用意している。正攻法と奇策とである。正邪の方法も状況や設定で異なる。
はっきり言って領土問題を今すぐ解決したいのなら兵を突っ込んで実効支配すればよい。逆らう住民は処刑し自国民を入植してしまえば良くはないが万事OK。
あとは反撃に来る敵軍と戦い撃破し続ければ良いのだ。それで良くない? でも今はチャンスじゃないか。政情不安でガタガタなんだ。その間に占領してしまって既成事実を積み上げたら解決よ。簡単だろうぉ? これぞ正攻法だ。
だから良くないのだ。将来に禍根が残るとはそのことであり、その人が生きている時代は平和でも死後に戦乱が起こったら最悪なのだ。しかもその犠牲者は侵略第一世代ではなく、その子たちの第二世代であり親の恨みが子に引き継がれるものとなる。
親の報いが子の報いとなる。負の連鎖でありそして歴史が加わりより憎悪がより増幅されていく。そのうえ当事者同士ではないからこそ憎しみの感情がより純化されてしまいイデオロギーと化す。
それに領土問題は百年経っても忘れられないし、なんなら蒸し返されていつも新たな問題として延々と継続される。王はそれを避けたいと言っている。ではどうする?
よって軍師王妃はこの場合では奇策でになる困難な案を提出する。王はこれに賛同し隣国に手紙を送った。
隣国の王宮内は騒然となった。すわ宣戦布告か!? このあいだ就任したばかりの幼き少年王は戦慄する。幼王、この一字で政情不安さは言い表せるに十分であろう。
いろいろとあった。もう、ありまくり。内ゲバ流行病災害によって王室の主要なものたちが相次いで倒れ帰らなくなり、それを機にあちこちで反乱がおき地方独立天下分裂といった流れが日に日に加速している。
いくら賢くてもまだ9歳の王は不安で夜もろくに眠れない。6時間しか眠れないのだ。児童虐待レベル。忠臣たちのバックアップでなんとか持ちこたえているが、ここでもしあの異常なお隣さんが攻撃を仕掛けてきたらどうしよう?
なんたってあいつは以前に行われた二度の交渉の不成立でこちらに悪感情を抱いている。その時の王はかなりのエゴイストであったから交渉しつらかっただろうがお互い様だ。
その後になんかこちらが誘拐作戦を起こしたとか理不尽極まる難癖をつけてきたし、調査したらあちらの王の愛人と子が亡くなっているとか割かしシャレにならない事件が起きていて、どうしてかこちらのせいにしていたからあいつは逆恨みの虐殺マシーンになっていてもおかしくはない。
こちらの弱みに付け込んで到底許容できない無理難題の最後通牒を押し付けて来てYESかNOのどっちかと怒鳴って来て、NOと言ったらあーあ言っちゃったね、だからお前のせいだとばかりに武力侵攻してくるかもしれない。
というかその可能性しかないから今も貴重な兵力を国境付近に配置している。内乱に乗じて対外戦争も始まったらオシマイだからね。そこだけは避けたいが、だからといってになっても困る。
それではどんな恐ろしいことが書いてあるのか……お手紙開封!
「貴国の状況に付け込み例の土地問題の解決に武力を用いて解決はしないことをここに誓う次第です
」
ほら見ろ! 武力行使をする宣言……ではないぞ? 逆? どういうことだ?なるほどこうやって油断させる計略か? ふっ愚かな、そうなんだね~じゃあ貼り付けている軍隊をよそに回そうかな~なんてしてみろ、掛かったなアホウが! とばかりに一挙に来るんだろ? 騙されるもんか! だったらお前んところの兵力を引きあげさせろってんだ。
「その証にこちらの兵を国境付近から引きあげよう貴国もこれに乗じてなどなされないであろう」
あれ? どういうこと? 引きあげようって攻撃するぞの言い換えか? と幼王はいぶかりながら首を揺らして部下に命じた。ちょっと様子を見てきてくれと。まるで台風の日に川の様子を見てくるように命じるかのように覚悟をもって。
すると後日、部下が戻ってきて報告をする。たしかに隣国の兵は一部の連絡兵を残し全員引きあげていると。そっそうか、ならば、と幼王はおっかなびっくりながら同じく自軍も引きあげさせて意気揚々と各地に軍を回し問題を解決していった。
すると後日にまた手紙が来た。
「貴国との信頼構築のために縁戚関係を結びたい。こちらの王女とそちら側とで」
幼王は椅子から滑り落ちそうになる。ウッソだろそれ、と。あの自国の女は国境を越えさせないと豪語していたあのドスケベ王が、こちらに嫁を出す!?
まさかどこに出しても恥ずかしくなる恥晒しとなるふつつかでふしだらな王女? 早く片付けたくなるどこに出しても惜しくない程度の歳の行き遅れ?
こちらの弱味に付け込んで、とうの立ったブサイクな年上嫁を持つショタものとかいう業の深そうな趣味を押し付けるつもり?
そいつは勘弁してくれとばかりに徹底的に調査させたらそんなことは全然なく、年頃のごく普通の王女とのこと。素敵なお姉さまだとのこと。興味深いがそれって君の感想だよね。
ほんとぉ? よく調べたの? 食事中ちゃんと見た? そういった女ってうなじからご飯を食べているってのが昔話の相場じゃん。現代ならうなじに充電の差込口があるのだろうけどさ。無い? あっそう。
よって逆に怪しい……あの女好きの独占力の強い噂のあれがこんなことをするだなんて。何かあるに決まっている! 訳ありなヒドイン系王女を送る方が理解しやすいほどにだ。
とさらに調べさせると王はそのことで苦しくて苦しくて堪らない様子とのこと。それほど苦しい思いをしてででもあの問題を前進させたいということだとか……幼王は考える。そこまで本気なのか、と。
そこまで自らを殺してまであの問題に取り組む姿勢であるのかと。徐々に両国の扉が開きはじめる。
次回理想の外交と交渉の姿。



