醜と美そして陰謀論、を物語る。

 
 さて次はこの地域のついて少し触れる。この王国は現在四つの地区に別れて運営されている。

 首都周辺は王様の地区。その息子である長男と次男の地区。三男の地区にあのアカメ一族の地元があった。

 そしてあの事件後の三男の話を述べよう。ここまで気にしている人もいただろうが、ここでその詳細を述べる。

 事件を聞いた三男は愕然としたし腰を抜かしてついでに失神した。とても現実とは思えずに怒りよりもまず現実の否定に走った。

 全部夢だとしてリセットしたい衝動に駆られての反応であり、寝て起きたら夢でしたを期待した。財布を無くした翌朝に枕元に実は財布がありました!

 そんな奇蹟を願ってのことであったらそれが夢ではなく現実なため落胆した。

 ここからは絶望が反転して怒りとなる。

 三男は激怒した! この邪知暴虐な陰謀に立ち向かわなければならない! なんだと? 犯人は隣国の特殊部隊だって?そんなのは出鱈目な陰謀論だ!

 俺は知っているんだと三男はその公式見解に首を振るう。

 犯人は兄たちだ! あの二人の仕業だ! 俺はそれをよく知っている。

 そうであるから裁きを復讐をしなくてはならない。

 崇めていた神が殺されたのだ。信徒としては命に懸けて敵討ちをしなくてはならぬ!

 真実はひとつ、そうだとも犯人は……お前達だ!

「いいや違う。お前が犯人だ。もとい、お前を犯人だ」

 三男の糾弾に対して次男は同じく指先を突き付けてそう返してきた。

「えっ?」

 大広間に二人を呼び出し名探偵を気取っていた三男の思考は停止する。逆に犯人扱いされる探偵ってなんだ?

 次男の後ろに立つ長男も首を縦に振っている。なんだこれは叙述トリックかなにかか? 世界がひっくり返るぞぉ。

「つまりはだな。俺達はお前を犯人に仕立てようとしているわけだ。こういうことだ、お前は傾国に心を奪われ自分のものにしたがっていた。
 そんな時に郊外に出たことを聞いたお前はこれを機会に自分の配下を使って誘拐しようとしたが、相手方の抵抗が激しく不運にも彼女に流れ矢が当たってしまい失敗。
 想いを遂げられずここ数日呆然自失に陥っていた、こういうのでどうだろう?」

「どっどうだろうもなにも、なんだよそれ! 俺がそんなことをするはずがないだろ!」

「そうだともお前はそんなことをするような男ではない。そのことは俺達がよ~く知っている。
 だが王はどうかな! いつも自分の若妻目当てにやってくる男を王はどう思っていたか?
 とうぜん快く思ってはいないだろうし疑念はとぐろを巻いているだろう。
 そこに対してあいつが犯人ですよ、と俺たち二人が耳打ちしたらどうだ?
 渦巻いていたとぐろが解放されてお前の首を絞めに来るとは思わないか?」

 たったしかに! と三男は己の想像で後ずさる。

 王は自分の訪問を良くは思っていなかった。そうであるからこそのあの自分抜きの郊外への散策だったのだ。

 そこで事件は起こった。自分はその場にいなかった。よって王の認識では動機のある犯人になる恐れもある。

「だっだが! そんな嘘に屈するものか! 王だって俺があの日どこにいたかを知ればそんな嘘は信じないはずだ」

「あっそう。だけどな結局のところお前も共犯だぞ」

「共犯なわけないだろ!」

 三男が叫ぶと次男はあの血判書を掲げた。

「あっ……」

 三男は驚いた。そうだかつて自分はあの天女を傾国の魔女だとして打倒する血判書にサインしていた。

 いまの自分になる以前のことだからすっかり記憶から消えていた。生まれ変わる前の愚行など憶えているはずもない。

「俺達三人は共に傾国を討つ同志だったということを忘れちゃ困るぞ。裏切り者の癖に裏切ったことへの自覚が希薄すぎるのも問題だな。
 お前が俺達を訴えるというのならこちらは時系列も入れ替えて王にご説明しよう。
 つまりはだな、お前は傾国欲しさに俺達を引きずり込んだということだ。
 なんたって俺達はあの女を一目も見ていないのだからな。お前は何回見た? 何回会った?
 その差が主犯か従犯かの決定的な違いになるのが常識的な第三者の判断だろう。
 だから常識というのはいつも疑わないとならないわけだがな。事実は小説よりも奇なりだ。
 さてどうする? 自己犠牲の精神で自爆しても確実に死ぬのはお前だけだが?」

 最悪だ! と三男は思った。隙あらば参内していたのだから、あれはスパイとして動いていたと解釈もされる。

 しかもそうじゃありません! 自分は王妃様のことを愛しておりましてそのためだけでして! 

 とか返したら、王のことだやはりお前は俺の女を狙っていたのか! と怒りの炎がとぐろを巻き自分は焼き尽くされてしまう。

 疑惑の点と点を一本の線で結ばせ「分かったぞ!」という気づきが陰謀論の完成となるが、自分の行為はその妄想を完成させてしまう。

 それに自分が死んだらこの二人は俺一人を犯人に仕立てあげるつもりだろうし。

「おまけに見つかった地域はお前の管轄下だ。そうだ、お前がいなくなった王子を匿っているとも言ってしまってもいいな。よってお前は詰んでいるのだ。だから俺達と争うのはやめておけ」

 八方塞がりとはまさにこのこと! だが、しかしだ!

「ならば私的制裁だ! 正義の鉄拳を喰らえ!」

 三男は二人に躍りかかるも、そこは体格差はもちろんのこと精神的な面でとてもかなうわけはなく、なんなく制圧されてしまい関節技を二人がかりできめられて苦しみもがいている。

 そこには怒りはなくただ苦しみで心が一杯だ。ありったけの勇気を奮ってみたもののこの有様。

 所詮三男は兄貴二人に勝てないものなのか。弟は兄に勝てないのか?

 喧嘩は外の他人に向かってやるのが得策な境遇であるのか。外弁慶として生きるのが弱き立場のものの生き方なのか。

「まぁ落ち着けって。俺達もそういうことはしたくないんだ。ただお前が余計なことを言わずにいてくれたら丸く収まるんだよ。
 お前が王に言わなければ良いだけのことだ。内乱を起こす気か? お前ひとりの犠牲で終わるがな、どうする?
 もう終わったことなんだ。新しい生き方でも探した方がお前のためだぞ?
 俺達は兄として弟であるお前がそう生きるのを心から願っているからな。だから今日はもう帰れ、な?」

 尻尾を撒いての帰宅後に三男は悔し涙で枕を濡らした。

 自分はなんと不甲斐無い男だと。腑抜けの弱虫だ。天女様を守れなかったどころか仇さえ討てない。

 兄貴二人には勝てっこないし、父親と協力しようにも自分への猜疑心からそれも叶わない。

 真実を述べても逆に計略に掛けられまさかこの自分が恐るべき陰謀の実行者に仕立て上げられる最悪の結果となる。

 なぜ誰よりも信仰し敬愛していた自分が神殺しの汚名を着せられるのだ?

 それだけは避けたい。裏切り者のユダになる覚悟もない。ああ本当に袋小路な人生だ。どこにも行けやしない。

 そもそもなんだこの世界は! 最も美しい美は滅ぼされるし正義は踏みにじられて汚されている。

 こんなにも生きるのに値しない世界だ、こんなものいらない!

 現実世界に生きるのはもう嫌だぁ~そうだ現実逃避しよう、ということで彼は現実を捨てた。

 神は死んだ、よって俺は現実をやめるぞぉ!

 そう現実をやめました。これからは美の奴隷として生涯を送ることにします。ということで彼は芸術の世界に生きることにした。

 なんたってそこは美のイデアを探求する世界。

 彼はこう思った。そうそう俺はあの天女の絵を描き彫刻を造ろうではないか。

 あの美しい人を生涯にわたって描き続けよう。それ以外のことはもう俺には残されていない。

 現実なんかあの美を滅ぼすとかいうクソクソ&ビチグソな醜怪極まる天外魔境そのものじゃないか。

 生きるに値しない世界だ。さようなら現実こんにちは二次元。『ART OF LIFE』な29分の日々が待っているわけだ。

 あそこに生きたってなんだってんだ。生き汚くなるだけさ。だったら俺は綺麗なこっちの方を真実として生きるってことだよ。

 もう俺の人生は余生であり晩年なわけさ。ふっ二十歳前だというのにこの心境、これも若さゆえの過ちかな?

 そんなことを言いながら彼はあの天女をキャンパスに描こうとした……描けない?

 あれ? と彼は出来上がりを見て……いいや、違う、彼は描く直前に全身が冷たくなった。

 あの人ってどんな顔をしていたっけ? これをお読みの皆さまも一度思い浮かべてみてください。

 生涯で一番好きだった人を、または生涯で一番美しかった人を、如何ですか?
 
 次回あのプルーストもこう書いていた、本当に愛していたものの顔は思い出しにくいものである、と。