醜と美そして陰謀論、を物語る。

 
 そんなサビと呼ばせた……いやここからはサビという名の少年と呼ぶ。彼は伯母から与えられた名から離れたのだ。

 よって元に戻ることを望まない子となる。

 そう、サビのパートナーともなるカツテについて見てみよう。

 あの件に対して「さすが姐さんだ」と一族のものはみな思ったものであった。

 暗殺事件の被害者二人を匿うだなんてあぶなっかしい。

 もしもバレたらリスキーであるし王家に返したほうが安全なのでは? 王家の陰謀劇に巻き込まれるのでは? な意見に対して彼女は首を振る。

 私は反対する。こんな赤子と子どもに何の罪があるのか? 全くの正論である。

 王宮に帰したら事件が継続となるしそれにこの恩は将来きっと回収できるのだから一石二鳥よ。

 という義と打算の両方を打っているのだから文句のつけようがない。

 厚き義理人情と計算高さ、頼れる大人の条件を満たしたものの、そんなものは見せかけと読者諸君はご了解済みなはず。

 彼女は都という故郷に帰りたいだけだということを。

 子供の頃に落ちぶれるとかつての自分の生活が輝かしいもののように感じやすくなるものである。

 これを成り下がりといって大人になっても癒されず心の深いところに傷を残しやすい。

 逆の成り上がりは落ちぶれた場合はそこまで気に病まないもの。

 また元の生活に戻ったまでよ、となる。スタート時点の問題なのでありもっというと自分とは何かの原点の話である。

 よって成り上がりよりも成り下がりこそが問題となる。『成りあがり How to be BIG』は読めば元気になるが『成りさがり How to be Small』となったら哀しくて溜め息しかでなくなる。これでは永ちゃんならぬ瞬ちゃん。

 特に子供の頃にそれを経験してしまうと予後の経過が悪くなりがちな傾向にある。

 このカツテの成り下がり経験は微妙なタイミングであった。女の子から大人になる丁度その手前でまだ子供時代といってもいいかもしれなかった。

 王妃という大人になる直前でのこの大きな進路変更、いまの自分はどこか違うのではないのかという感覚。

 そしてその悩みは誰にも話すことができない。

 周りにはそれを分かる人は一人もいない地元民だらけ。こんなことは誰にも言えない。こんな子供な悩みなど打ち明けられない。

 あらかじめ言っておくとカツテは別にこの地で自分は都会ものだというアピールなどしていない。

 都風をこの地で通そうとはしなかった。それどころか積極的にこの地の風習や文化を摂取した。

「これだから都会っ子は軟弱なのよねぇ~気取っちゃて生意気なこと!」といった舐め切ったことを言わせぬぐらいにこの地の色に染まりに染まった。

 芋臭い髪形もするしなんなら誰よりもセンス良く仕上げ格の違いを見せつけてもいた。

 王妃候補競争を闘った戦士が田舎で無双しているようなものである。

 田舎の剣豪が都で無双するの逆バーションだ。それも当然やり過ぎないように調整している。

 人はあまりにもかけ離れたセンスは理解できないしそれどころか反発を生むしなんならダサいとされる。

 その地でのセンスを1.0の標準としたら1.1~1.2あたりで維持するのが得策である。

 これを1.5といきなり上げると理解が追い付けなくなるし2.0なんてなんだそれな最先端を行くパリコレとなる。裸の王様も最先端なファッションである。

 どんな学校でもうまく生活している生徒は標準より少し上あたりの中の上であり、そのあたりを維持するのが人に好かれるのには真に賢明なのだ。

 ロビンソークルーソーのお父さんだってそのようなことを言っており、その場面は冒頭あたりで述べられているのでそこだけ読んでも結構十分であろう。

 内面描写ばかり見ているとカツテは凶暴そのものだが、その凶暴さを抑えに抑えているからこそ嫁として成功し家長代理まで成り上がれたのである。

 どのみち男も女も出世するには忍耐が肝心なのだろう。

 その内に秘めたる暴力性を上手い具合に制御して200キロ出せるところを100キロに抑えて走っているというところ。

 さて彼女は改めてサビを見て怯む。この子は本当に人間なのだろうか、と。

 あまりにも……醜い。不安を感じさせる。

 実は俺は人間じゃないんですと言ってくれたら助かるというぐらい。

 こいついきなり襲い掛かって来やしないかと間合いも自然にとってしまう。

 だいたい母と伯母の死骸をそのままでいい、というあの発言も耳を疑うしかない。

 追手が回収に来るしこちらの関与があると面倒になるという事情は分かる。

 まさに合理的な判断であるがあまりにも冷静かつ人間性が薄いのではないか? 言って貰えて助かるがそれで良いのかこの子はとなってしまう。

 ……あれか? 言っちゃならないが醜いからか? 人間と違うのは顔だけではなく心もか?

 人情が薄いのも人間ぽくないからか? あの綺麗な赤子だけ引き取りたいがそうはいかない。

 こちらもセットでというところがなんとも騙された感すら出してくれる。案外バランスが取れている? だけどこれってドラクエブームの際に起こった違法な抱き合わせ販売では?

「……都から来たと聞いたけど、どこに住んでいたんだい?」

 カツテは一番聞きたいことをサビに尋ねた。

「王宮の一角にあるグルグルと回る階段のあるところでした。俺達は毎日そこを降りたり昇ったりしていた」

 あそこだ! と彼女は昨晩の夢とそしてかつてはそこを昇ったり降りたりしていた記憶が甦える。

 龍の間への螺旋階段、するとどうだろう鼻先にその間の匂いがする。

 まさか匂いも人は記憶しているのか? 

 そういう現象があることは聞いていたが、いや、違う、この子から漂ってきたのかもしれない。

 血に汗に埃に塗れ水浴びをさせたとしてもこの子はあの龍の間に住んでいたから体に染みついている。

 それにこれは運命だ。都から来た赤子たちは螺旋階段のある龍の間に住んでいた。

 夢で繋がっている。これは必然のことなんだ。カツテはサビを抱き寄せた。

 さっきまで感じていた恐怖心もなかった。醜さへの抵抗感よりも自分の故郷の匂いがそこにある。

 だけどサビの頭を嗅いでも龍の間の香りはしなかった。だから脳内でその香りを再現させていた。

 サビとカツテはひとつの点で共通していた。都落ちで、ある。

 サビたちの住んでいた塔の以前の居住者は実はカツテの一族だった。

 政変で空き部屋となりそのまま放置していたのを姉妹が利用したということである。

 だからカツテはその龍の間についてサビに始めは恐る恐る聞くも途中から執拗なまでの詳細さを求めてきた。そして彼は尋常ではない記憶力と言語力で答えてくれる。

 ここでは誰にも聞けないことをこの都から落ち延びてきた子にだけ聞ける。

「俺は元の場所に戻りたいです」

 私もだよ! とカツテはサビの言葉に完全に同意して叫びたかったがそこは抑える。

「まぁそう言うんじゃないよ。ここは良いとこださ。すぐに分かるよ」

 分からなくていいと思いながらそう言った。自分は家長同然の嫁だという自覚が彼女にこうさせた。

 ここは都に比べて素晴らしいところですね、俺ここに永住します! と言い出したらどうしようというあらぬ心配をするぐらいに彼女はサビについて心配をする。

 絶対に上京するんだからね、私も一緒に行くんだからね! 私たちは故郷に帰りそして元に戻るんだと。過去への固執もとい過去に生きるもの同士と言っていいだろう。

 言葉ではそんな約束は交わしていないものの行動と思いが二人を結び付けた。

 だからか年が20は離れているというのにカツテは義母顔をせずにサビのことをサビさんと呼び、彼もそれにならいカツテさんと呼ぶこととした。

 そしてそれがどうしてかしっくりときて誰も不自然に感じられず違和感なく受け入れられた。

 こうして彼らの潜伏生活が始まる。ここはいわば裏舞台でありこちらの静的である。

 では動的になりつつある表舞台の目を向けてみよう。次回、静かに狂う王。