醜と美そして陰謀論、を物語る。

 
 カツテの故郷への憧憬と現状への諦観が混ざった夢を見た翌日があの事件の日だったのである。

 いつものようにカツテが自分の子を叱っていると若い衆が飛び込んで来た。

 妙な馬車が止っています。ありゃここのじゃなく都のものかもしれません、姐さん、ご確認をおねがいしてもよろしいでしょうか?

 ビクッと彼女の心臓が鳴った。すぐに夢のことを思いだした。

 もしかしたら自分を迎えに来たのか? いままでのは全部間違えでこれから本当のほうが始まると言ってくれるのか?

 あの頃に戻らせてくれるのか? 馬車はそのために来たのではないのか? 私をここから連れ出してくれるために。

「へぇ、馬車ねぇ。おおかた道に迷ったのでしょうが、都の偉い人が乗っているからしれないからみんなで見に行きましょう」

 カツテは努めて動揺を表情に出さずにそう命じた。だいたいそんな馬鹿な、と彼女は自嘲する。それにしてもこの地に住んでから自嘲癖がついたなと思いつつそれでも自己を客観視する。

 夢と現実の区別がつかなくなるなんて笑い話だ。つかないどころか混同しだすなんて、こんなのを人に聞かれたら笑われてしまう。

 こんな少女趣味な妄想は絶対に人に気取られたくない。そうだ私はこの地と完全に同化している、そう周りから思わせないとならないのだからね。

 ……彼女の不幸のひとつに小説の登場人物という点があるかもしれない。秘密は無きに等しい。

 ということで一族の若い衆を引き連れて現場に直行するカツテ+アカメ一族。

 もしかして王家の馬車を盗んだ不逞の輩かもしれないとみんなが警戒するも、カツテだけ違うことで胸がいっぱいだ。あの彼がいたらどうしよう? 

 ああ私はもう二児の母で人妻です。いまさらもうどうしようもないのです……なにを馬鹿なことを言っているのあんた? と自分で自分にツッコミを入れ自嘲しながら進んでいくと、馬車があった。

 あれは矢鴨ならぬ矢怪物? なっなにこれ? と一同は想像だにしなかった異形の怪物を見ながら呆然とした。

 死んでる? いや、生きてる? いきなり動いたら困るんだが。

 遠巻きながら声を掛けたり棒で突いたりしながら近づいていくと無事死亡を確認した。

 死骸によってカツテのここに来るまでのロマンチックな妄想は胡散霧消していた。ほら自嘲通りだ、と。いつも現実は汚くそしてつまらないものだ。

 これは期待薄どころか事件だ届け出ないとな、と思いながら荷台を覗き込むと血塗れとなっている女の死体を見つけた。

「もう一人いる!」
「二人いる!」

 死体が起き上がりその下から真っ赤な存在が姿を現した。血まみれの子供、いや違う。

 血まみれの怪物! その醜い顔をした子供に対してカツテは悲鳴をあげながら腰を抜かした。そして醜いものは何かを掲げた。

「この子は王となる美だ。どうか保護を願いたい。この子は王子だが陰謀に巻き込まれ生命を狙われている」

 血によるシミがひとつすらついていない布につつまれた赤子を見ながら口上を聴いたカツテはその場で自然と跪いた。

 そうだったのだ……彼女は全てを理解した。そういうことなのだと何もかもが分かった。この汚く醜い子と清く綺麗な赤子そして陰謀……全て一本の線に束ねられる。

 一族の者たちが自分たちの姐さんが跪いてなんか拝んでいるので彼らもそれにならって同じ態勢を取る。

 前を見ると血で汚れたぶっさいくなガキがすんごく綺麗な赤子を掲げているがどういうことなんだ?

 すると姐さんが立ち上がりその赤子を受け取った。その表情はとても明るくすごく上機嫌である。

「みんな、この二人の客人を歓迎するよ」

 そういうことになった。だからこれ以後公式的には二人の子供は行方不明のままである。もっとも醜い方は誰も探してはいないが。

 赤子は王家の手のものがどれほど探しても見つかりはしない。それもそのはず、地元のアカメ一族が匿っているからである。

 もしもこれがカツテではなく亡くなった姑であったらこうはいかない。

 とっとと王家の手のものに届けてことを終わらせて一件落着そしてその後王子二人に殺されて終了。

 だからこそ彼女でないとこの物語は二章へと繋がっていかないのだ。

 その土地の所有者であるアカメ一族のもとに王家の手のものが何度も訪れた。

「我々も捜査に協力いたします。見つけ次第必ずお届けいたします」

 こう返事をして返すがそんなつもりはさらさらなかった。家の奥にはあの王子様がいるのだ。

「みんな、この客人は我々に富と成功をもたらしてくれる存在だよ!」

 カツテが一族のものに訴えるとそうなのかぁと一同は目を輝かした。説明によると赤子は暗殺されかけた王子様であり未来の王なのだということ。

 安全にこのまま匿えば自分達の将来は明るいどころの話ではなくアゲアゲのギンギラギンであるとのこと。

 上京して都に屋敷を構えられる……こんなのは地方民のいつもの妄想である。酒のつまみに丁度いいやつ。

 俺も上京が出来ていたら成功していたけど、まぁいろいろあるけど地元は好きだし長い付き合いもあるし。それに俺ってほら長男だしさ。

 とかなんとかグダグダ言い訳しつつ地元社会を守りながら生涯を閉じるのである。男はそれで良いのだ。地元最高! と言いなさい。あなたは田舎のネズミとなり都会のネズミを馬鹿だなぁと思いながら生涯を送るのだ。

 けれども都からやってきてくれた姐さんがこの王子様を御守りして成り上がっていくとかいう話を聞いたら話が違う。

 本当にそうなるかもしれない。自分達は都のことなんかなんにも知らない。旅人からそういう話を聞くだけのこと。

 とにかくなんかすごいらしい。そこ出身の姐さんが出来ると言っているんだ。マジでスゴイ!

 何も知らない俺達がそう言ったら夢見んなバカ、で終わる笑い話だが、都のことをたくさん知っている都の地元民だった姐さんがそう言うんだから現実寄りな話なんだ。

 こうして一族の統制は完成した。現実味のある夢物語とか大切にしたいものだ。だから二人の客人は始めからこの家にいましたという設定となった。

 赤ん坊はこの家に最初からいたし子守の男の子も生まれた時からこの家にいました。

 みんな心からそれを信じることにした。みんながみんなそう思い込みそう接すると案外そうなるものである。

 家にいる犬とか猫とか間違いなく途中で入ってきたものであるが、なんか最初からいる気がするしそれ以前のことが思い出しにくいというのに似ている。「お前はこの家で生まれたんだよね」と話しかけても狂気だが誰もそう認識しない。

 一緒に住むというのはひとつの魔法にかかっている状態であるともいえる。

 人間はすぐに疑似家族関係を構築できる脳の仕組みを有している。そうでないと全くの他人と一緒に暮らすことなんてできるはずもない。赤の他人も家族待遇すればたちまちに家族となる。

 こうしてサビとテツはアカメ一族の客人となりそして雌伏の時となる。