君と終わった街で

そう思うだけで、胸が苦しくなる。

文姫は視線を落としたまま、小さく息を吐く。

熱のせいか、頭がぼんやりしていた。

でも逆に、そのせいで少しだけ素直になれている気もした。

「……昨日」

小さく声を出す。

洸太が静かに文姫を見る。

文姫は布団を握ったまま、言葉を探した。

「携帯、見えちゃって」

洸太の表情が少しだけ止まる。

文姫は続ける。

「平井さんからのLINE」

そこまで言った瞬間。

胸の奥がまた痛くなった。

「昨日のキスって……」

最後の方は、ほとんど声になっていなかった。

静かな沈黙が落ちる。

外では、まだ弱い雨音が続いている。

洸太はしばらく黙っていた。

言い訳を考えているのかと思って、文姫は少し怖くなる。

でも。

次に聞こえた声は、とても静かだった。

「……あれ、誤解させるよな」

洸太は小さく苦笑する。

その顔に、後ろめたさはあっても、隠している感じはなかった。

文姫はゆっくり顔を上げる。

洸太は視線を逸らさないまま続けた。

「平井は会社の後輩」

「この前、残業の時に二人になって」

そこまで言って、少し困ったみたいに笑う。

「昔好きだったやつに再会したって話したんだよ」

文姫の胸が、小さく揺れる。

洸太は気づかないまま続ける。

「そしたら急にキスされて」

文姫は思わず視線を落とした。

胸がざわつく。

聞きたくないのに、聞いてしまう。

でも次の瞬間。

洸太が静かに言った。

「でも、俺からじゃない」

その言葉に、文姫の呼吸が少し止まる。

洸太は小さく息を吐く。

「ちゃんと断ろうと思ってた」

「中途半端にしたくなかったから」

静かな声だった。

誤魔化しも、軽さもない。

文姫はその横顔を見ながら、胸の奥が少しずつ熱くなるのを感じる。

安心したんだ、と気づく。

あんなに苦しかったのに。

洸太に特別な誰かがいるわけじゃないと分かった瞬間。

こんなにも安心してしまう。

その事実が、もう答えみたいだった。