君と終わった街で

洸太は小さく笑って、スマホをポケットへしまう。

ほんと、単純だと思う。

昔からそうだった。

文姫の言葉ひとつで、気分が変わる。

名前を呼ばれるだけで嬉しくなる。

十年経っても、結局そこは変わっていない。

駅へ向かう人の流れに混ざりながら、洸太は夜空を見上げた。

ビルの光で、星なんてほとんど見えない。

でも今日は、不思議と街が少し綺麗に見える。

明日。

また文姫に会う。

その事実だけで、こんなにも世界の温度が変わる。

高校の頃みたいだ、とまた思う。

でも、あの頃とは少し違った。

昔は、もっと苦しかった。

好きになりすぎて。

期待しすぎて。

文姫の一言で、一喜一憂していた。

でも今は。

会えるだけで嬉しい。

話せるだけで楽しい。

それだけでも、十分だと思える。

……いや。

本当に?

洸太はそこで、自分の思考に少し苦笑する。

十分なわけがない。

本当はもっと欲しい。

また隣にいたい。

自分を見てほしい。

十年前、言えなかったことを。

今なら、ちゃんと伝えられる気がしてしまう。

でも同時に怖かった。

もしまた、昔みたいに終わったら。

せっかく戻ってきたこの時間を、また失ったら。

そう考えるだけで、胸の奥が少し冷える。

改札を抜ける。

ホームには金曜の夜らしい人混みが溢れていた。

酔った会社員。

笑いながら歩く大学生。

誰も、自分のことなんて気にしていない。

その中で洸太は、静かに思う。

明日。

文姫はどんな顔で笑うんだろう。