君と終わった街で

自分は今。

思っていたよりずっと、洸太を特別に感じ始めている。

その事実に気づいた瞬間。

文姫は、少し怖くなった。

パソコンの画面を見つめたまま、小さく息を吐く。

恋愛なんて、もうしたくないと思っていた。

誰かに期待するのも。

好きになるのも。

全部、疲れるだけだと思っていたのに。

どうして洸太だけは違うんだろう。

昔からそうだった。

洸太といる時だけ、気を張らなくていい。

無理に笑わなくていい。

沈黙も怖くない。

それは高校生の頃から変わっていない。

でも。

今、自分の中にある感情は、あの頃とも少し違う。

高校の時は、“安心できる大事な人”だった。

恋愛ではないと思っていた。

でも今は。

洸太に彼女ができる想像をしただけで、胸が痛かった。

それが何を意味しているのか。

もう、自分でも分かり始めていた。

「……やだな」

小さく呟く。

今さら、そんなふうになるなんて。

自分は一度、洸太を振っている。

恋愛としては見れない、と。

あんなに真っ直ぐ好きでいてくれたのに。

それなのに今になって、自分だけ気持ちが揺れるなんて。

勝手すぎる。

文姫は額を軽く押さえる。

その時。

「文姫さん、大丈夫ですか?」

後輩が少し心配そうに声をかけてくる。

「あ、うん。平気」

慌てて笑う。

でも、たぶん少し顔に出ていた。

後輩は、

「無理しないでくださいね」

と言って、自分の席へ戻っていく。

文姫はその背中を見送りながら、ゆっくり椅子へ座り直した。

窓の外は、もう夜になり始めている。

オフィスの照明がガラスへ反射して、東京の景色が少しぼやけて見えた。

その時。

またスマホが震える。

文姫は思わず手を伸ばした。

『帰り道気をつけろよ』

洸太からだった。

たったそれだけ。

いつも通りの、短い文章。

なのに。

文姫の胸は、静かに高鳴る。

文姫はスマホを見つめたまま、小さく目を伏せた。

土曜日まで、あと二日。

たぶん自分は。

思っているよりずっと、その時間を待っている。