君と終わった街で

昼休みが終わる。

オフィスの空気が、また少し慌ただしくなっていく。

文姫はスマホを伏せ、パソコンへ向き直った。

仕事をしなきゃ。

そう思うのに、心のどこかがずっと落ち着かない。

土曜日まで、あと少し。

その事実だけで、毎日の輪郭が変わっている。

午後の作業は忙しかった。

修正が増えて。

クライアントから電話が来て。

気づけば、外は少し暗くなり始めている。

窓の向こう。

曇っていた空が、夕方の色に変わっていた。

「文姫さん、これ確認お願いします」

後輩から資料を渡される。

「あ、うん」

受け取りながら、文姫は軽く肩を回した。

少し疲れていた。

でも嫌な疲れじゃない。

離婚してからずっと、自分の中に重たいものが沈んでいた。

毎日ちゃんと生きているのに。

どこか色が薄い感じ。

笑っていても、本当に笑えている感じがしなかった。

でも今は違う。

洸太からLINEが来るだけで、少し気持ちが軽くなる。

そんな自分に、まだ慣れない。

その時。

スマホが小さく震えた。

反射みたいに画面を見る。

『今日遅くなりそう?』

洸太だった。

文姫は少しだけ口元を緩める。

『たぶん残業』

送信。

すぐに既読がつく。

『そっか』

『無理すんなよ』

それだけ。

本当に、それだけなのに。

胸の奥がじんわり温かくなる。

文姫はスマホを見つめながら、ふと思う。

もし今。

洸太に彼女ができたら、自分はどう思うんだろう。

その想像をした瞬間。

胸の奥が、小さく痛んだ。

文姫はゆっくり目を伏せる。

――ああ。

そこで初めて、自分でも気づく。

自分は今。

思っていたよりずっと、洸太を特別に感じ始めている。