宮古島の夜。
わたしたちは、2人で砂浜に座り込んでいた。
研究所の近くに宿をとって(もちろん別部屋)、夕食を気まずい雰囲気で食べたあと、わたしたちはわたしの発案で砂浜にやってきた。
やっぱ絆を深めると言ったら、海を見ながらトークだよね。
砂浜に2人で座ってるなんて言ったらなんだかロマンチックだけど、実際はかなり気まずい雰囲気。
だけどこのままじゃ一生人魚のウロコは手に入らない。わたしは口を開いた。
「ロウくんは、なんで暗殺なんてしようとしたの?」
「いきなりかよ!」
波の音とともにロウくんのツッコミが響く。
たしかにいきなりだけど、絆を深めるにはお互いのことを深く知るしかない。
「……お前、校長にクラスでもめごとを起こしたって言われてたな。それを先に聞いてから、話すかどうか決める」
「ぐっ……」
そこまで聞かれてたのか。
まあ、いっか。絆を深めるためだし。
わたしはその「もめごと」について、話すことにした。
「もめごと、ね……。わたしがクラスでのいじめを止めようとしたら……。あ、ちょっと長くなるけど、話すよ」
「いじめ……」
あれ、ロウくん、「いじめ」に妙に食いつくなあ。
まあ、それは気にしないことにして、わたしは海を見ながら話し始めた。
わたしがクラスでも劣等生なのは、ご存じのとおり。
でも、正直わたしは劣等生すぎて、もはやネタにされてるっていうか、相手にされてないっていうか……みんなからいじめられるとか、そういうことにはなってなかった。
いじめの標的になったのは、わたしの次にできない子。その子は男の子で、気も弱くて、有名な家系出身だとか、そういう目立った特徴もなかった。
彼はいわば、「ちょうどいい劣等生」だったんだ。
いじめは魔法でその子の教科書をビリビリにしたり、物理的にものを隠したり、それはそれは陰湿なものだった。
わたしは同じ劣等生として、もちろん劣等生じゃなくたってきっとやってたと思うけど、いじめの主犯格に突撃した。「いじめをやめて」ってね。
すると主犯格の女の子は言った。「魔法で決闘をしましょう。勝ったらいじめをやめてあげる」と言った。
ご存じのとおり、わたしはほぼ魔法が使えない。だけどそれ以外に方法がなくて、その話を受けたんだ。
「魔法が使えないのに、魔法の決闘を受けたのか!? なに考えてるんだ……」
「それくらい必死だったってこと!」
決闘の日。夕方の教室で、わたしたちはクラスメイトたちに見られながら、決闘をすることになった。
もちろんわたしは攻撃魔法なんて使えない。
……結果は、想像のとおり。
わたしは、けちょんけちょんにやられちゃった。
そこだけ見たら、わたしは完全に被害者だけど、主犯格の女の子は一枚上手だった。
わたしがその子に嫉妬して、襲ってきたことにしたんだ。
しかも、有名な青宮家なのに、自分ができないから自暴自棄になってるんだって、家のことまで引っ張り出して。
普段から素行の悪いわたしの言うことなんて先生たちは誰も信じてくれなくて、結局わたしが一方的にもめごとを起こしたことになっちゃった。
結局いじめも止められなくて、今は夏休みだけど、いじめられている彼は今日もゆううつな日々を過ごしてると思う……。
「そんなことないよ」
突然、ロウくんが言った。
わたしはびっくりして振り向き、目を丸くした。
ロウくんは海を見つめたまま言った。
「お前がいじめを止めようとしたこと、きっとそいつには救いになってる」
「ロウくん……?」
「お前は偉いよ」
わたしの顔を見て、ロウくんは言った。
そんなまっすぐ褒められると、照れちゃうよ……!
「なに顔赤くしてんだ! そういう意味じゃないぞ!」
「そんな直球で褒められたら、赤くもなるでしょうが!」
わたしたちは大声で言い合ったあと、ロウくんはまた海を見つめた。
「オレのときにも、お前がいたらな……」
「え?」
「オレの話」
ロウくんは海を見つめたまま話しはじめた。
「2年前のことだ。……オレもいじめられてたんだ。劣等生だからじゃないぞ、優等生だったから妬まれて、だ」
そういうの、自分で言うんだ……。
「いじめはたぶんお前のときよりもっと陰湿だった。高等部だったからな、もっと色んな魔法が使えたから」
「高等部だったって……もしかして、東京魔法学校の!?」
「そうだ。オレは東京魔法学校の生徒だった」
だから、図書室の場所も知ってたんだ。
魔法生物学の教室に入らなかったのも、先生にばれちゃうから……?
「オレの味方は誰もいなかった。だからオレは先生に相談した。ところが日本一の名門の学校でそんないじめがあったことを校長は認めたくなかった。だからいじめはなかったことにしたんだ」
「ひどい……。それに、校長って……あの校長先生!?」
「いや、違う。あの校長はお前が入学する1年前に校長に就任したんだ」
「そうなんだ……」
ロウくんの話は続く。
「その間もいじめは続いた。オレは前の校長が許せなくて、怒りが抑えきれなくて、暗殺することにした。オレは武器生成魔法で銃を造り、校舎の別棟から校長室に向けて銃弾を放ったんだが……。校長に魔法の気配を気づかれ、銃弾は校長の魔法で無効化されてしまった。オレの居場所もすぐに特定され、暗殺未遂で捕まったってわけだ」
「そうだったんだ……」
ひどい。
たしかに人を殺そうとするのはいけないことだけど、元はと言えばいじめを隠蔽しようとした校長先生が悪いんだから。
「まあ、その校長はいじめを隠蔽していたことが裏でわかって、公表こそされなかったがそれを理由にクビになったよ。それが唯一の救いだ」
でも、元はいじめが原因で、ロウくんは捕まってしまった。
ロウくんは元は何も悪くなかった。いじめは、いじめた方が悪いんだから。
「それじゃあ、わたしがいたらよかったね。なんの役にも立たないけど、いじめをとめようとはしたと思うよ」
わたしは少しだけ微笑んで言った。
すると、ロウくんもわたしを見て、少しだけ微笑んだ。
「そうだな。なんの役にも立たなかっただろうな。……でも、気にかけてもらうだけでも、救われることって、あるんだよ」
「はっきり言われるとむかつくんですけど。……そうだね、あの男の子も、少しだけでも、楽になってるといいな」
「なってるさ。きっとな」
そう言うと、ロウくんは立ちあがり、服についた砂をぱっぱっと払った。
「あれ、もう行くの!?」
「これ以上話すことはない。宿に戻るぞ」
わたしも立ちあがり、あわてて引きとめた。
「ちょっと! このあとは絆を深めるために、花火をする予定なんだけど……!」
「そんなことしてられるか! だいたい花火なんて用意してないだろ!」
「ロウくんの杖でパチパチやってよ! わたしできないから!」
「おまえ、そんな簡単な魔法も使えないのか! ……しょうがないな……」
ロウくんはリュックから黒い杖を取りだすと、心底めんどくさそうに杖の先から花火のようなカラフルな火花を散らした。
かわいい。線香花火みたい。
わたしはしゃがみこんで、杖の先を見つめる。
「これで満足か?」
「はい! 満足です!」
わたしはふと空を見上げた。
満天の星空だ。
わたしは星座にくわしくないからどれがどの星かわからないけど、とにかくきれい。
振るような星空ってこんな星空のことをいうんだなあ。
ここは東京みたいに街の光がたくさんないから、星もよく見えるんだ。
「ねえ、星空がきれいだよ!」
「……ああ、本当だ。夏の大三角がよく見える」
「夏の大三角ってどれだっけ?」
「……お前、ほんとになにも知らないな……」
ロウくんは呆れたように言って、夜空を指さした。
「あの一番明るく見える青白い星が、ベガ。その次に明るいベガの右下にある星が、アルタイル。ベガの左下にあって、3つの星の中で一番明るさが弱いのが、デネブ。その3つの星をつなげて夏の大三角だ」
「あ、わかった!」
わたしも夜空を指さして大きな声で言った。
「声がでかい」
「すいません……」
それにしても、海を眺めながら2人の過去を話して、花火もして、夜空まで見ちゃって、結構絆、深まったんじゃない!?
「わたしたち、結構仲良くなれたんじゃない!? 明日なら、人魚さんもウロコ、くれるかも!」
「どうだかな……」
ロウくんは不安そうだけど、わたしたちには後がない。
明日こそうまくいくと信じて、わたしたちは宿に戻った。
わたしたちは、2人で砂浜に座り込んでいた。
研究所の近くに宿をとって(もちろん別部屋)、夕食を気まずい雰囲気で食べたあと、わたしたちはわたしの発案で砂浜にやってきた。
やっぱ絆を深めると言ったら、海を見ながらトークだよね。
砂浜に2人で座ってるなんて言ったらなんだかロマンチックだけど、実際はかなり気まずい雰囲気。
だけどこのままじゃ一生人魚のウロコは手に入らない。わたしは口を開いた。
「ロウくんは、なんで暗殺なんてしようとしたの?」
「いきなりかよ!」
波の音とともにロウくんのツッコミが響く。
たしかにいきなりだけど、絆を深めるにはお互いのことを深く知るしかない。
「……お前、校長にクラスでもめごとを起こしたって言われてたな。それを先に聞いてから、話すかどうか決める」
「ぐっ……」
そこまで聞かれてたのか。
まあ、いっか。絆を深めるためだし。
わたしはその「もめごと」について、話すことにした。
「もめごと、ね……。わたしがクラスでのいじめを止めようとしたら……。あ、ちょっと長くなるけど、話すよ」
「いじめ……」
あれ、ロウくん、「いじめ」に妙に食いつくなあ。
まあ、それは気にしないことにして、わたしは海を見ながら話し始めた。
わたしがクラスでも劣等生なのは、ご存じのとおり。
でも、正直わたしは劣等生すぎて、もはやネタにされてるっていうか、相手にされてないっていうか……みんなからいじめられるとか、そういうことにはなってなかった。
いじめの標的になったのは、わたしの次にできない子。その子は男の子で、気も弱くて、有名な家系出身だとか、そういう目立った特徴もなかった。
彼はいわば、「ちょうどいい劣等生」だったんだ。
いじめは魔法でその子の教科書をビリビリにしたり、物理的にものを隠したり、それはそれは陰湿なものだった。
わたしは同じ劣等生として、もちろん劣等生じゃなくたってきっとやってたと思うけど、いじめの主犯格に突撃した。「いじめをやめて」ってね。
すると主犯格の女の子は言った。「魔法で決闘をしましょう。勝ったらいじめをやめてあげる」と言った。
ご存じのとおり、わたしはほぼ魔法が使えない。だけどそれ以外に方法がなくて、その話を受けたんだ。
「魔法が使えないのに、魔法の決闘を受けたのか!? なに考えてるんだ……」
「それくらい必死だったってこと!」
決闘の日。夕方の教室で、わたしたちはクラスメイトたちに見られながら、決闘をすることになった。
もちろんわたしは攻撃魔法なんて使えない。
……結果は、想像のとおり。
わたしは、けちょんけちょんにやられちゃった。
そこだけ見たら、わたしは完全に被害者だけど、主犯格の女の子は一枚上手だった。
わたしがその子に嫉妬して、襲ってきたことにしたんだ。
しかも、有名な青宮家なのに、自分ができないから自暴自棄になってるんだって、家のことまで引っ張り出して。
普段から素行の悪いわたしの言うことなんて先生たちは誰も信じてくれなくて、結局わたしが一方的にもめごとを起こしたことになっちゃった。
結局いじめも止められなくて、今は夏休みだけど、いじめられている彼は今日もゆううつな日々を過ごしてると思う……。
「そんなことないよ」
突然、ロウくんが言った。
わたしはびっくりして振り向き、目を丸くした。
ロウくんは海を見つめたまま言った。
「お前がいじめを止めようとしたこと、きっとそいつには救いになってる」
「ロウくん……?」
「お前は偉いよ」
わたしの顔を見て、ロウくんは言った。
そんなまっすぐ褒められると、照れちゃうよ……!
「なに顔赤くしてんだ! そういう意味じゃないぞ!」
「そんな直球で褒められたら、赤くもなるでしょうが!」
わたしたちは大声で言い合ったあと、ロウくんはまた海を見つめた。
「オレのときにも、お前がいたらな……」
「え?」
「オレの話」
ロウくんは海を見つめたまま話しはじめた。
「2年前のことだ。……オレもいじめられてたんだ。劣等生だからじゃないぞ、優等生だったから妬まれて、だ」
そういうの、自分で言うんだ……。
「いじめはたぶんお前のときよりもっと陰湿だった。高等部だったからな、もっと色んな魔法が使えたから」
「高等部だったって……もしかして、東京魔法学校の!?」
「そうだ。オレは東京魔法学校の生徒だった」
だから、図書室の場所も知ってたんだ。
魔法生物学の教室に入らなかったのも、先生にばれちゃうから……?
「オレの味方は誰もいなかった。だからオレは先生に相談した。ところが日本一の名門の学校でそんないじめがあったことを校長は認めたくなかった。だからいじめはなかったことにしたんだ」
「ひどい……。それに、校長って……あの校長先生!?」
「いや、違う。あの校長はお前が入学する1年前に校長に就任したんだ」
「そうなんだ……」
ロウくんの話は続く。
「その間もいじめは続いた。オレは前の校長が許せなくて、怒りが抑えきれなくて、暗殺することにした。オレは武器生成魔法で銃を造り、校舎の別棟から校長室に向けて銃弾を放ったんだが……。校長に魔法の気配を気づかれ、銃弾は校長の魔法で無効化されてしまった。オレの居場所もすぐに特定され、暗殺未遂で捕まったってわけだ」
「そうだったんだ……」
ひどい。
たしかに人を殺そうとするのはいけないことだけど、元はと言えばいじめを隠蔽しようとした校長先生が悪いんだから。
「まあ、その校長はいじめを隠蔽していたことが裏でわかって、公表こそされなかったがそれを理由にクビになったよ。それが唯一の救いだ」
でも、元はいじめが原因で、ロウくんは捕まってしまった。
ロウくんは元は何も悪くなかった。いじめは、いじめた方が悪いんだから。
「それじゃあ、わたしがいたらよかったね。なんの役にも立たないけど、いじめをとめようとはしたと思うよ」
わたしは少しだけ微笑んで言った。
すると、ロウくんもわたしを見て、少しだけ微笑んだ。
「そうだな。なんの役にも立たなかっただろうな。……でも、気にかけてもらうだけでも、救われることって、あるんだよ」
「はっきり言われるとむかつくんですけど。……そうだね、あの男の子も、少しだけでも、楽になってるといいな」
「なってるさ。きっとな」
そう言うと、ロウくんは立ちあがり、服についた砂をぱっぱっと払った。
「あれ、もう行くの!?」
「これ以上話すことはない。宿に戻るぞ」
わたしも立ちあがり、あわてて引きとめた。
「ちょっと! このあとは絆を深めるために、花火をする予定なんだけど……!」
「そんなことしてられるか! だいたい花火なんて用意してないだろ!」
「ロウくんの杖でパチパチやってよ! わたしできないから!」
「おまえ、そんな簡単な魔法も使えないのか! ……しょうがないな……」
ロウくんはリュックから黒い杖を取りだすと、心底めんどくさそうに杖の先から花火のようなカラフルな火花を散らした。
かわいい。線香花火みたい。
わたしはしゃがみこんで、杖の先を見つめる。
「これで満足か?」
「はい! 満足です!」
わたしはふと空を見上げた。
満天の星空だ。
わたしは星座にくわしくないからどれがどの星かわからないけど、とにかくきれい。
振るような星空ってこんな星空のことをいうんだなあ。
ここは東京みたいに街の光がたくさんないから、星もよく見えるんだ。
「ねえ、星空がきれいだよ!」
「……ああ、本当だ。夏の大三角がよく見える」
「夏の大三角ってどれだっけ?」
「……お前、ほんとになにも知らないな……」
ロウくんは呆れたように言って、夜空を指さした。
「あの一番明るく見える青白い星が、ベガ。その次に明るいベガの右下にある星が、アルタイル。ベガの左下にあって、3つの星の中で一番明るさが弱いのが、デネブ。その3つの星をつなげて夏の大三角だ」
「あ、わかった!」
わたしも夜空を指さして大きな声で言った。
「声がでかい」
「すいません……」
それにしても、海を眺めながら2人の過去を話して、花火もして、夜空まで見ちゃって、結構絆、深まったんじゃない!?
「わたしたち、結構仲良くなれたんじゃない!? 明日なら、人魚さんもウロコ、くれるかも!」
「どうだかな……」
ロウくんは不安そうだけど、わたしたちには後がない。
明日こそうまくいくと信じて、わたしたちは宿に戻った。


