留年だけは勘弁してください!~用心棒は元・暗殺者!?~

 わたしたちは東京魔法学校の昇降口に帰ってきた。

 まだ2日しか経っていないのに、すごく懐かしく感じる。

「はやく校長室に行くぞ。こんな課題、もうこりごりだ」
「わたしだって!」

 わたしたちは階段を上がり(スーツケースはロウくんがしぶしぶ持ってくれた)、最上階の校長室を目指す。

「ぜえ……ぜえ……。お前、なに宮古島に持って行ってたんだよ……」
「い、いろいろ! 浮き輪とか、水着とか……」
「遊びじゃないんだぞ!」

 校長室の前でも言い合いを繰り広げたあと、わたしたちは校長室の扉をノックした。

「どうぞ」

 部屋の中から校長先生の声がする。

「失礼します!」

 わたしとロウくんは校長室の中へ入る。

 校長室は全面本棚に覆われていて、圧迫感がある。
 なんでも、校長先生が変わる度に、内装も変わるんだって。

「あら、ずいぶん早いお帰りでしたね」

 校長先生は驚いたように言った。

「はい。わたしたち、思ったより良いバディだったので」
「なに言ってんだか……」
「ええ、そうでしょうね」

 「ええ、そうでしょうね」? わたしは少しその返しに少し疑問を感じた。
 ……まあいっか。

「それで、こちらが人魚のウロコです。宮古島の人魚さんから頂きました」
「はい。よく見せてください」

 わたしは人魚のウロコを校長先生に渡した。

 まるで鑑定するように、色々な方向から注意深く見つめている。

「たしかに。本物のようですね。人魚のウロコは記念に差し上げましょう」
「じ、じゃあ?」
「ええ。課題は合格です。留年の話はなかったことにしましょう」

 や。
 やったああああああああ!!!

 わたしはその場で叫んで小躍りでもしたい気分だった。

「そして、鷲塚(わしづか)ケントさん」

 わ、鷲塚ケント?
 まさか、ロウくんの本名?

「あなたを釈放しましょう。そして、高等部の2年生に編入させることとします。ほんとうはあなたは3年生ですが、その方がいいでしょう」
「ほ、ほんとうですか……!」

 ロウくんは驚いたように声をあげた。
 そりゃそうだよね。「刑期を短くする」と言われていたんだもん。

 そのとき、ノック音がして校長室の扉が開いた。
 入ってきたのは、魔法生物学の先生だった。

「おお、帰ってきたのか。ずいぶん早かったね、お2人さん」
「せ、先生……!」

 魔法生物学の先生に反応したのは、ロウくんだ。

「課題を達成したということかな? 鷲塚くん、ほんとうによかった。きみが犯罪者として収容されていたのは、あまりに不公平なことだったからね」

 そうか、魔法生物学の先生はロウくんの事件のことも知っているのか……。

「それにしても校長先生。わたしの考えた課題は、ずいぶんよかったでしょう?」
「ええ。理想的な課題でした」
「え?」

 わたしは思わず声をあげる。
 「理想的な課題」って、どういうこと? それに、魔法生物学の先生が考えた、って?

「せっかくですから、種明かしをしましょう。わたしたちは青宮さんを留年させる気はありませんでした。少し反省はさせるべきだと思っていましたがね。そして鷲塚さん、あなたの処遇にもわたしは疑問をもっていました。たしかにあなたは暗殺未遂を起こしましたが、あなたはいじめの被害者です。なので、あなたを釈放させる口実がほしかった」

 留年させる気はなかった? 釈放させる口実がほしかった?
 わたしの頭の中ははてなだらけになった。

「そこで、夏休みの課題を与えることにしました。青宮さんは水中魔法が得意でしたね。なので、課題は『人魚のウロコを手に入れること』にしました。そして用心棒として鷲塚さんをつける。2人には『いじめ』という共通項目がありましたから、きっと打ち解けられると信じていました」

 まって、わたしのもめごとの真相も、校長先生は見抜いてたってこと?

「そして、宮古島の人魚だ!」

 魔法生物学の先生が口を開いた。

「彼女は人間の絆が好きだともっぱら界隈では有名な人魚でね。きっと青宮くんはわたしに頼りにくるとふんでたんだ。聞きに来たら宮古島の人魚のことを教えようと思っていた。そうしたら案の定聞きにきて、少し面白かったがね」

 はっはっは、と魔法生物学の先生は笑った。

「つ、つまり、この課題はすべて、お2人に仕組まれていたということですか……!」

 ロウくんは心底驚いたように、そして少し悔しそうに言った。

「もちろん、さすがに人魚とは口裏を合わせていないよ。人魚からウロコをもらえたのは、正真正銘2人の努力の成果だ」

 魔法生物学の先生が言うと、校長先生もうなずいた。

「そう。2人はよくがんばりました。では、残りの夏休みを楽しむように」
「今日はゆっくり休むんだぞ」

 2人の先生に見送られるように、わたしたちは校長室を出た。

「はあ、なんだったんだ……」

 ロウくんはため息をついている。
 そりゃそうだよね、まさかこの課題が全部先生たちが仕組んだものだったなんて。

「でも、よかった! わたしは留年しないし、ロウくんは学生に戻れる! ……えーと、鷲塚ケントくん、だっけ?」
「学生に戻るんだから、敬語使えよ」
「えー、いまさらムリだよ」

 ふう。
 わたしたちは、また一息ついた。

 終わった。
 夏休みの大きな課題が。

 ……そうだ。
 わたしはロウくんに右手を差しだす。

「なんだ、その手」
「握手! さっきはノリで言っちゃったけど、わたしたち、思ったより良いバディだったでしょ?」
「……どうだか」

 そう言いつつも、ロウくんはわたしの右手を握った。

「じゃあ、新学期が始まってもよろしくね! わたし、勉強聞きに行くから!」
「……それは勘弁してくれ」
「絶対に聞きに行くからね! じゃあ、帰ろう!」
「またオレが荷物持って階段降りるのか!?」

 学校から釈放されたロウくんとわたしは、一緒に帰った。
 
――わたしの手のひらの中では、人魚のウロコが優しく輝いていた。