角を曲がる直前、伊織が小さく言った。
伊「透羽ちゃん……ひとり、嫌だよね」
私は一瞬だけ止まった。
振り返れなかった。
振り返ったら、崩れるから。
だから私は明るい声を出した。
「嫌じゃないよ〜。私、ひとり好きだもん!」
嘘。
でも、言わなきゃいけなかった。
角を曲がった先にあるマンションの階段を登る。
鍵を開けて中に入り、ドアを閉める。
その瞬間、笑顔が消えた。
部屋は静かだった。
冷蔵庫の音が、やけに大きい。
私は靴を脱いで、玄関に座り込んだ。
さっきまで、誰かがいた。
誰かが笑っていた。
誰かが、私を見ていた。
それがもう、いない。
胸が苦しくて、息ができない。
私は、膝を抱えて小さく呟いた。
「……ひとり、嫌だなぁ」
でも、声はすぐに部屋の静けさに飲まれて消えた。

