記憶を無くしたイケメン弁護士は運命のビーナスを取り戻せるか!

その時ドアがガラッと開いて、中年の優し気な男の人が入ってきた。

「どうしたの?」

と事務員の人が事情を説明している。

「そうか、マリに会いに来たんですね。どちらさまですか」

と聞いてきたので

「私関本裕美と言います。ケンいや刈谷宣之さんと一緒にいるものですが、マリさんにお話があって来たんです」

「ふ~ん、ユキと一緒に暮らしているというのはあなたなんですね」

ちょっと上から目線の嫌な雰囲気だ。

でも裕美は引かなかった。

「そうです。マリさんはここを辞められたんですか?」

「まあね、そういう約束で働いててその期限が来たから、ちょっと疲れたので一時休業だよ。この3年あまり信じていた男に裏切られてもうボロボロになっていたからね。少し休まないとね。まだ人生長いんだから」

「あの、私村へ帰ることにしたんです。だからケンじゃなくてユキさんをマリさんに返しに来たんです。ユキさんはマリさんでないとダメなんです。あの人の心にはマリさん以外入る余地は1ミリもなかったんです。それがよくわかりました。マリさんが村に来た時丁度母の葬儀の時だったんですが、私マリさんに酷いこと言ってしまって、誤解されるような態度も取ってしまったので謝りに来たんです。もう東京には来ることもないので帰る前にマリさんに謝っておきたくて…」

「そうか、でもちょっと遅かったな。マリは暖かい所に行きたいと言ってたな。色んな所に行ってみたいと言ってたよ。これから先の人生を見つめ直すそうだ。あんな男は吹っ切って新しい人生を歩けと言って送り出したんだ。行く先は分からないよ」

そういってその人は寂しそうに笑った。

「そうですか。ありがとうございました」

裕美は手紙も預けられず、マリの行き先もわからずケンに申し訳ない事をしたと思った。

ケンが東京に帰ると言った時点で、自分は村に残ると言って送り出してあげるべきだったのだ。

マリに対抗意識なんか持ってしまって、勝てるはずもないのに、バカなことをして二人を傷つけて引き離してしまった。

ケンは最初からずっと兄のような気持ちで裕美に優しく接してくれていたのに、裕美はその優しさを自分の言い様に捉えて勝手にケンに恋したのだ。

ケンにもマリにも申し訳が立たない。

とりあえず今日ケンが帰ってきたら、これからは妹としてケンの事思っていくから昨日の事は忘れてと言おうと思う。

そしてマリさんの事を知らせなければ早く会いに行ってほしい。

その前に行き先を調べなければいけないけれどケンならやれるだろうと思う。

こんなに自分の気持ちをすぐに切り替えられるのにも自分自身驚いている。

きっと泰樹の存在が大きいのだろう。

いつも優しく裕美の事を見守ってくれている。

今は故郷の海と空気がそして泰樹が懐かしい。

この半年間ケンを吹っ切るのには必要な時間だったのだと思う。

もう東京に何の未練もない。

なるべく早く帰ろう。

その夜日付が変わる頃になってもケンは帰ってこなかった。