暴れる恋情 ~萌ちゃんママは御曹司に激愛されまくりです~

 矢継ぎ早に言われてドキドキしてきた。でもそうだ。結婚するんだから顔合わせは大事だ。私は自分の両親が藤堂さんを見てどんな顔をするだろうとわくわくしてきた。
 沙雪なんて私が結婚するなんて知ったらなんて言うだろう。子どものことはさておき、結婚は沙雪が先かもと思っていたので自分でもやはり意外な展開だと言える。
 でも不安だってもちろんある。
「あの......私、大丈夫でしょうか。うちは普通の家なので、家柄なんかが不釣り合いなんじゃないでしょうか」
「家柄なんて気にしなくていいさ。俺が深雪がいいんだから。ただ母親は鈴音が好きだから少しごねるかもしれない。でもちゃんと俺が説得するから安心して」
 そうだ。鈴音さんの件がある。鈴音さんは藤堂さんとの結婚にこだわっているのだ。鈴音さんが了承してくれるかどうか、そんな問題だってある。
 ふわふわ浮かれてばかりでもいけないな。
「深雪、見て。つつじが綺麗だ」
 道路の道なりにつつじがいっせいに咲いているところがあった。
「わあ、綺麗」
 私の声に藤堂さんも目を細める。こんな幸せな時間を丁寧に抱き続けよう。焦らず、じっくりと。まだまだいろんなことがこれからなんだから。
 そんなふうに自分に言い聞かせたドライブとなった。

「えっ、イタリアに?」
「ああ一か月ほど行ってくる」
 そろそろ寝ようかな、と思っていた二十三時頃、藤堂さんから電話がかかってきた。私たちはラインよりもこうして電話で話すことが多い。
 私は藤堂さんの声が好きなのでうれしい時間だ。
「長期出長なんですね」
 少し寂しいけどお仕事だもの、と自分に言い聞かせる。
「『ニコチャンマン』のアニメがイタリアでも放映されてるんだ。グッズ展開を大々的にしようと思ってるからメーカーとの商談がメインだな。それとボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアも見たいしな」
「世界的規模のブックフェアですよね。すごい。見ごたえあるでしょうね」
 話を聞くだけでもわくわくしてくる。絵本の山に囲まれて楽しそうにかつビジネスマンとしてキリリと働く藤堂さんが目に浮かぶようだ。
「来年は深雪も連れて行きたいな。それで出張前にうちの両親と会わないか」
「は、はい」
 その話を詰めないと、と前の電話でも話していたのだ。
「やっと時間が作れそうなんだ。ここを逃すとまた先になりそうだから、急で悪いけど今度の木曜日の夜なんてどうかな」
 木曜日なら私は早番だ。
「わかりました。大丈夫です。ちょっと早めにあがらせてもらいます」
 ドキドキしてきた。三日後だ。着ていく服とか準備しないといけない。
「藤堂さ...あっ。藤堂さんのご両親の前で藤堂さんって呼んだら変ですね」
「そうだな。一気に三人分の視線が深雪にいくぞ」
 想像するとおかしくなった。笑いがこぼれる。
「えっと......彰良さんと呼んでもいいですか?」
「もちろんだ。いつそう呼んでくれるか待ってたんだぞ」
 言ってくれればいいのに、とまた笑ってたわいない話をいくつかして電話を切った。
 三日なんて瞬間的に過ぎてしまう。水曜日の晩に真奈美に電話して服のコーディネートとはこれでいいか画像を見てもらった。彰良さんとデートするようになって買った淡い水色の透け感のあるワンピース。真奈美は
「いいんじゃない。お嬢さんっぽいよ」
と言ってくれた。お嬢さんか......鈴音さんは本物のお嬢様だからな......彰良さんのお母様は令嬢っぽいのがお好きかもしれない。
「あれ?深雪ちょっとやせたんじゃない。制服だとわからなかったけど」
「ああ、最近あんまり食欲なくて。いつも春は調子悪いからそれじゃないかな」
「そう?大事な顔合わせじゃない。気をつけなよ」
「うん。ありがとう」
 合わせる靴も相談に乗ってもらって、なんとか準備はできた。
 木曜日。平日なのに店は妙に忙しかった。化粧直しに手間取っているとすぐに彰良さんとの待ち合わせ時間となった。
「おっ、決めてきたな深雪」
 うれしそうに彰良さんは言うけれど。私は緊張してしまってそれどころではない。なにを話すんだったっけ、と用意していた話題もどこかへ吹っ飛んでいる。
 車はしばらくしてから住宅街へと滑り込んだ。大きな邸宅のある一角だ。広い庭のある家がこんなに並んでるなんて都内でこの辺りくらいかも。
 大きな門をくぐって大理石の床の玄関にたどり着く。重そうなドアが開き、中から中年の女性が出て来た。
「坊ちゃま。お待ちしておりました」
 迎えてくれたのは家政婦さんらしい。案内されておずおすとあがり長い廊下を歩くと広間のソファに彰良さんのご両親らしい方たちが座っていた。
「父さん。母さん。これが話していた山本深雪さんだ」
「はじめまして。お話は伺っているよ」
 彰良さんのお父様だとすぐにわかった。目元の彫りが深いところなんて彰良さんそっくりだ。彰良さんが高齢になったらこんな感じなのかな、と思わせる。きりっとした紳士的なお父様だ。
「さっそくだけど食事にしましょうか」
 栗色のボブヘアでレースをあしらった素敵なブラウスを着られているのは彰良さんのお母様だ。ソファセットのある部屋の隣りにあるダイニングテーブルに座るよう促される。
 想像していたけれど、彰良さんのご実家はやはり、というくらい素敵な調度品であふれていた。こっくりとした深みのある棚の奥にはアンティークだろうか。華美なティーセットが燦然と並んでいる。
 あまりきょろきょろしないように、と気をつけていると玄関で迎えてくれた家政婦さんがお食事を運んできてくれた。
 美しくて美味しいお料理をいただきながらお話をする流れになった。予想はしていたけれどお父様もお母様も読書家だった。特にお父様は現役社長のときに付き合いのあった有名な児童文学作家たちの話をしてくださり、とても興味深かった。出版の現場の話は彰良さんからもよく聞くけれど教科書に載っているような大作家の話が聞けるなんて本好きにはたまらない。
 私は今日は体調がいいみたいだ。お料理もやさしくあっさりとしたメニューで食べやすかったのも幸いした。残したりしたら申し訳ないのでほっとする。
 お母様は口数が少なく、少し微笑みをたたえてお父様や彰良さんの話を聞いていた。なんとなく元気がなく見えるのは気のせいだろうか。
 そう考えると彰良さんの言っていた「鈴音のことが好きだからごねるだろうな」と言っていた台詞が気になってくる。
 彰良さんはお母様を説得すると言っていたけど、うまくいったのかな......。ここに来る前に彰良さんに確認しておくべきだった。
 話はなめらかにすすんでいった。デザートもいただき、そろそろお暇した方がいいだろうな、と思っていると彰良さんが言った。
「今日は父さんと母さんに報告しにきたんだ。ここにいる深雪と結婚しようと思ってる」
 ほう、とお父様は目を見開かれた。
「あなた、田代さんにお電話する時間じゃなくて?」
 お母様はお父様の方へ身体を向けて言った。
「ああ、そうだった。約束があったな」
 そう言ってお父様は立ち上がり部屋を出て行く。
「なんだよ。タイミング悪いな」
 彰良さんがぼやくと、それには応えないでお母様は私を見た。
「ねえ、深雪さん。連絡先を教えてくださる?近い内にお会いすると思うから」
「あっ、はい......」
 手渡されたメモ用紙とペンでスマホの電話番号を書いた。
「なんだよ。母さん、深雪を買い物にでも付き合わせる気か」
「ふふふ。女同士の付き合いがあるのよ」
 お母様はにっこり微笑まれた。お買い物とかお茶とか......そういうことなのだろうか。
 うまくきくこともできず、彰良さんのご実家を後にする流れとなった。

 公休日の日。私はホテルのレストランの個室で彰良さんのお母様と向き合っていた。午後十四時。昼食はすませてきていた。お母様もそうらしくコーヒーを注文されたので私も同じものにしてもらった。
 昨日、仕事を終えて帰ってくると、スマホにお母様から連絡があったのだ。このレストランを指定され休みの日に会えないかと。翌日が公休日だったので今こうして会っている。
「先日はありがとうございました。お食事、とても美味しかったです」
 お母様が黙っているので私から切り出した。
 コーヒーが運ばれてきたが、お母様は手をつけない。私の言葉も届いていないのかじっとテーブルの中央辺りを見ている。
 ゆっくり顔をあげて、私と視線を絡めた上でお母様は口を開いた。
「深雪さん、彰良と別れてちょうだい」
 お母様はきつい眼差しで私を見つめた。
 私は動転して言葉が発せられなかった。コーヒーカップを手にしてなくてよかった。きっとコーヒーをこぼしてしまっていただろう。
「何故でしょうか……」
 やっとの思いでそう訊いた。鈴音さんのことがあるからごねるかも、と彰良さんは言っていたけれど。説得できていなかったのか。それともやはり家柄とか?
「私が藤堂家にはふさわしくないということでしょうか」
 言いながら喉が渇いてくる。
「いいえ。そういうことじゃないのよ。あなたに問題はないわ」
 お母様は目を伏せた。私に問題はない?なおさら何故、とききたくなる。お母様はふっと息を吐いた。
「昔話をきいてちょうだい」
 拒否するわけもなく、私はうなずいた。
「私には同い年の幼馴染がいてね。子供の頃から仲がよくてきっと将来結婚するだろうとお互いに思っていたわ。十代になるとそれぞれ異性の友人ができたけれど、結局はお互いしかないと思って十七歳の夏に恋人同士になったわ。