そして、500キロ離れたキミと手を繋ぐ


 言う通りに目を閉じ、でも耳は塞がずに、りっくんの立てた音に集中する。
 今なら歌える気がした。

「♪〜」

 私の知るどの既存曲とも違う歌い出し。
 昔りっくんにだけ聞かせていた気ままな即興の歌を。

 見なくてもわかる、今私の足元で【歌唱魔術】の小さい魔法陣が即座に完成した。
 だってこういうメロディーは、歌い続ける限り効果の続くタイプになると決まっている。私はそれを知っている。

 歌うメロディーによって効果の変わる【歌唱魔術】。
 たくさんたくさん歌ってたしかめたから、どんな曲調でどんな効果になるかは把握している。
 昔過ごしてきた時間が、目を閉じて得られる情報だけで、りっくんがどんな効果を求めているかを私に理解させる。

 今は攻撃、今は踏み込む力を強くしたい、今攻撃が当たりそうだから防御力。

 仮想現実だから、喉の負担を気にすることなく、ずっとずっと歌い続けることができた。
 あんなに心を蝕んできた悲鳴も、もう耳に入らない。

 ああ、やっぱり、りっくんといる時間が一番楽しい。
 連絡先を交換できない以上、もう二度と会えない可能性だってあるのに。